第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題ポスター
基礎P34

2016年5月29日(日) 10:00 〜 11:00 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-KS-34-3] 肩甲骨周囲筋の新たな筋力計測法の提案

山内真吾1, 山崎肇1, 工藤篤志1, 成田和真1, 岡村健司2 (1.医療法人社団悠仁会羊ヶ丘病院リハビリテーション科, 2.医療法人社団悠仁会羊ヶ丘病院整形外科)

キーワード:肩甲骨, hand-held dynamometer, 信頼性

【はじめに,目的】

肩の機能回復には,腱板のみならず肩甲骨周囲筋の筋力が重要である。そのため肩に障害を有する症例の筋力を正しく評価する事は肩のリハビリを行う上で意義が大きい。筋力評価には,徒手筋力検査法(MMT)を用いるが,疼痛や可動域制限によって肩関節の機能評価に重要な,僧帽筋中部(middle trapezius:以下MT)や僧帽筋下部(lower trapezius:以下LT)のMMT計測における腹臥位がとれない症例が多く,その評価が困難となることが多い。我々は客観的かつ信頼性・再現性のある評価方法が必要であると考え,今回,HHD(hand-held dynamometer:以下HHD)を用いてMTとLTに対する新しい筋力計測方法を考案し,その信頼性をMMTと比較し検討したので報告する。

【方法】

対象は,肩関節に障害のない健常成人男性16名(平均年齢24±1.9歳,利き手側右16名)とした。計測にはHHDを用い,計測筋は左右MT・LTの4筋とした。新計測法は経験年数3年以上の理学療法士3名が行った。計測肢位は端坐位で両上肢下垂位にて手部を大腿前面に置き,下肢は膝90°屈曲位にて足底を地面に接地した状態とした。MTに対する計測は肩甲骨内転運動に対し内側縁へ,LTに対する計測は肩甲骨内転・下制運動に対し肩甲骨下角にHHDを徒手にて固定した。各試行5秒間の最大随意収縮3回行った。信頼性の検討には級内相関係数(Intraclass correlation coefficient:以下ICC)を使用し,検者内信頼性にはICC(1,1),検者間信頼性(2,3)を用いて検討した。

【結果】

新計測方法の検者内信頼性ICC(1,3)は右MT:0.753,左MT:0.806,右LT:0.890,左LT:0.932。検者間信頼性ICC(2,3)は右MT:0.430,左MT:0.545,右LT:0.544,左LT:0.481であった。

MMTの計測方法の検者内信頼性ICC(1,3)は右MT:0.912,左MT:0.915,右LT:0.915,左LT:0.950。検者間信頼性ICC(2,3)は右MT:0.758,左MT:0.820,右LT:0.560,左LT:0.534であった。

【結論】

今回,新法の検者内信頼性がICC 0.753~0.932と高かった。この事から,同一検者による経時的な筋力評価には有用であり,腹臥位を取れない症例に対して,臨床上使用する事が可能である。

検者間信頼性は,ICC 0.430~0.545と低い結果となった。過去にBohannonら(1986)が検者の習熟度や体格も影響を及ぼすと報告しており,新法は検者の肩甲骨への測定器機を当てる手や骨盤をおさえる固定力,検者の習熟度や体格の違いも影響して誤差が生じた可能性がある。またReeseら(2001)は,検者の抵抗力が測定結果に影響を及ぼす可能性がある事を報告している。今後,検者間の信頼性を高めるためには,骨盤をベルトで固定する,壁を用いるなど固定力を一定にするなどの工夫や計測方法の習熟などが必要と考える。

本研究は腹臥位の肢位がとれない肩関節疾患において,患者様の経時的変化を客観的に評価する方法の一つとして有用な方法である事が示唆された。