[P-KS-34-5] 重力による下腿牽引は脛骨大腿骨間距離に影響を与えるか
超音波画像を用いた測定
キーワード:超音波画像診断, 関節牽引, 関節裂隙
【はじめに】
理学療法の徒手療法の一つとして関節牽引が広く用いられているが,効果や影響について科学的根拠は乏しい状況であった。近年,特殊な機器を用いて一定の角度・強度にて関節牽引を実施し,どの程度関節が離解するのか報告されてきている。しかし,臨床においては自重による関節牽引効果を期待し行われる端座位肢位で生じる自重による牽引の関節離開距離を測定した報告は多くはない。本研究の目的は,超音波診断装置を用いて,背臥位と端座位における脛骨大腿骨間距離の変化を明らかにすることである。
【方法】
対象は健常成人9名(男性6名,女性3名,平均年齢28.1歳,平均身長170cm,平均体重60.3kg)の手術歴や現在膝痛がない14膝とした。測定肢位は背臥位と端座位の2肢位とした。超音波画像撮影は超音波診断装置GE Healthcare社製LOGIQ e BT12,プローブは50mmを用いた。プローブの位置は先行研究を参考に,前額面では脛骨内側顆と外側顆の上縁を結ぶ線に直交し,矢状面では下腿の中央線に平行であることを基準とした。そのうえで,膝蓋靱帯2cm内側を目安として骨隆起に合わせた部位を,各肢位2回ずつ撮影した。撮影中,被験者に可能な限りリラックスするよう指示をした。得られた画像から,画像解析ソフト(Image J 1.46r)を用いて脛骨大腿骨間距離を測定した。脛骨大腿骨間距離は,脛骨前面から関節面に切り替わる部位を指標点とし,その指標点から同じ深度にある大腿骨の部位までの距離とした。また,超音波画像撮影の検者内信頼性を確認するため,初回撮影とは別日に再撮影し,級内相関係数ICC(1,1)を用いて算出した。背臥位と端座位の2肢位の差について,対応のあるt検定にて比較し,有意水準を5%とした。
【結果】
超音波画像撮影のICC(1,1)は背臥位0.98,端座位0.90であった。脛骨大腿骨間距離は,背臥位は平均7.9±2.1mm,端座位は平均14.0±4.3mmであり,端座位は背臥位と比較して,脛骨大腿骨間距離の有意な増加を認めた(p<.05)。
【結論】
端座位は,大腿骨が固定され下腿が牽引される膝関節を離開する方向に重力がはたらくと考えられる。本研究においても,端座位では脛骨大腿骨間距離が約6mm拡大した。端座位は,膝関節周囲組織の伸張性低下による膝関節拘縮の改善や半月板縫合術後の膝関節への圧縮力軽減が必要な時期に有効な姿勢である可能性が示された。一方で,タイプの異なる人工膝関節に対して100Nの牽引を実施して後十字靭帯温存型では平均0.3mm離開したのに対して,後十字靭帯切除型では平均2.2mm離解したとの報告がある。人工膝関節置換術後のタイプによっては膝関節周囲組織に過剰な伸張ストレスが加わる可能性があるので,端座位姿勢は注意が必要であると思われる。本研究の限界は,超音波画像撮影の際に時間的配慮がなされていなかったことがあげられる。
理学療法の徒手療法の一つとして関節牽引が広く用いられているが,効果や影響について科学的根拠は乏しい状況であった。近年,特殊な機器を用いて一定の角度・強度にて関節牽引を実施し,どの程度関節が離解するのか報告されてきている。しかし,臨床においては自重による関節牽引効果を期待し行われる端座位肢位で生じる自重による牽引の関節離開距離を測定した報告は多くはない。本研究の目的は,超音波診断装置を用いて,背臥位と端座位における脛骨大腿骨間距離の変化を明らかにすることである。
【方法】
対象は健常成人9名(男性6名,女性3名,平均年齢28.1歳,平均身長170cm,平均体重60.3kg)の手術歴や現在膝痛がない14膝とした。測定肢位は背臥位と端座位の2肢位とした。超音波画像撮影は超音波診断装置GE Healthcare社製LOGIQ e BT12,プローブは50mmを用いた。プローブの位置は先行研究を参考に,前額面では脛骨内側顆と外側顆の上縁を結ぶ線に直交し,矢状面では下腿の中央線に平行であることを基準とした。そのうえで,膝蓋靱帯2cm内側を目安として骨隆起に合わせた部位を,各肢位2回ずつ撮影した。撮影中,被験者に可能な限りリラックスするよう指示をした。得られた画像から,画像解析ソフト(Image J 1.46r)を用いて脛骨大腿骨間距離を測定した。脛骨大腿骨間距離は,脛骨前面から関節面に切り替わる部位を指標点とし,その指標点から同じ深度にある大腿骨の部位までの距離とした。また,超音波画像撮影の検者内信頼性を確認するため,初回撮影とは別日に再撮影し,級内相関係数ICC(1,1)を用いて算出した。背臥位と端座位の2肢位の差について,対応のあるt検定にて比較し,有意水準を5%とした。
【結果】
超音波画像撮影のICC(1,1)は背臥位0.98,端座位0.90であった。脛骨大腿骨間距離は,背臥位は平均7.9±2.1mm,端座位は平均14.0±4.3mmであり,端座位は背臥位と比較して,脛骨大腿骨間距離の有意な増加を認めた(p<.05)。
【結論】
端座位は,大腿骨が固定され下腿が牽引される膝関節を離開する方向に重力がはたらくと考えられる。本研究においても,端座位では脛骨大腿骨間距離が約6mm拡大した。端座位は,膝関節周囲組織の伸張性低下による膝関節拘縮の改善や半月板縫合術後の膝関節への圧縮力軽減が必要な時期に有効な姿勢である可能性が示された。一方で,タイプの異なる人工膝関節に対して100Nの牽引を実施して後十字靭帯温存型では平均0.3mm離開したのに対して,後十字靭帯切除型では平均2.2mm離解したとの報告がある。人工膝関節置換術後のタイプによっては膝関節周囲組織に過剰な伸張ストレスが加わる可能性があるので,端座位姿勢は注意が必要であると思われる。本研究の限界は,超音波画像撮影の際に時間的配慮がなされていなかったことがあげられる。