第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題ポスター
基礎P34

2016年5月29日(日) 10:00 〜 11:00 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-KS-34-6] オプトジェネティクスを用いた脊髄損傷後の歩行リハビリテーション治療の開発

Re-walk with blue light

高島健太1,2, 松久直司1, 嶋田啓1, ザーラーピーター1,2, 李元領1, 横田知之1,2, 関野正樹1,2, 関谷毅2,3, 八尾寛4, 染谷隆夫1,2, 小野寺宏1 (1.東京大学工学研究科電気系工学専攻, 2.ERATO染谷生体調和エレクトロニクスプロジェクト, 3.大阪大学産業科学研究所先進デバイス研究分野, 4.東北大学生命科学研究科脳機能解析分野)

キーワード:歩行リハビリテーション, 脊髄損傷, オプトジェネティクス

【はじめに,目的】

脊髄損傷による後遺症に多くの患者が苦しんでおり,運動機能回復を可能にする治療法開発が待たれる。近年,損傷されていない腰髄部の歩行中枢を活性化する歩行リハビリテーション治療法が開発され,電気刺激と薬物投与によって完全麻痺ラットが歩行機能回復を得られたと報告されている。そのため,完全麻痺後に歩行中枢を効率的に活性化する新たな歩行リハビリテーション治療法の開発が望まれる。光刺激によって特定の神経細胞を刺激し,特定の神経回路を効率的に活性化させるオプトジェネティクス技術はその治療法の一つの有力な候補であるが,今までオプトジェネティクスを用いた脊髄損傷後の歩行機能回復治療法は報告されていない。そこで,オプトジェネティクスを用いた脊髄損傷後の慢性期歩行リハビリテーション治療法の確立を本研究の目的とした。


【方法】

青色光刺激によって脊髄神経細胞を活性化させるために,光応答性イオンチャネルであるチャネルロドプシン2遺伝子(ChR2V+)を神経細胞に発現させたラットを作製した。そのラットに対して胸髄完全離断を行い,完全麻痺ChR2V+ラットを作製した。損傷5-6週間後に歩行中枢のある腰仙髄部に青色光を照射するために,腰髄部に脊髄窓を移植した。その後,完全麻痺ChR2V+ラットを体重免荷2足歩行装置に設置し,各刺激条件下(刺激なし,光刺激,薬物投与,光刺激+薬物投与併用)でのトレッドミル上での歩行動作を高速ビデオカメラ(300fps)で撮像し,2次元動作解析を行った。薬物はセロトニンアゴニストであるquipazineと8-OHDPAT(0.2 mg/kg)を投与した。


【結果】

完全麻痺ChR2V+ラットでは,トレッドミル上での関節運動が観察されなかった一方で,光刺激を行った完全麻痺ChR2V+ラットでは股,膝,足関節運動が観察され,左右交互運動が観察された。さらに,光刺激と薬物投与を併用治療した完全麻痺ChR2V+ラットでは,股,膝,足関節運動に加えて,歩行ステップの高さが有意に増加し,明らかな2足歩行運動が観察された。これらの結果から,我々は脊髄損傷後の完全麻痺ラットに対してオプトジェネティクスを用いて光刺激応答性歩行ステップを成功させた。さらに,セロトニンアゴニスト投与とオプトジェネティクスの併用治療によって,完全麻痺ラットの歩行機能を回復させることに成功した。


【結論】

我々はオプトジェネティクスを用いた脊髄損傷後の歩行リハビリテーション治療を確立した。オプトジェネティクスを用いた歩行リハビリテーション治療では,チャンネルロドプシン遺伝子制御のプロモーターを変えることで,標的神経細胞を自由に変えることが可能となる。つまり,現在までブラックボックスとされていた脊髄損傷後の歩行リハビリテーション治療の神経回路可塑性を解明するためやより効果的に歩行機能を回復させるために,この手法は大きく役立つと期待される。