第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題ポスター
基礎P35

Sun. May 29, 2016 10:00 AM - 11:00 AM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-KS-35-2] 短時間の熱刺激が骨格筋糖代謝に与える影響

後藤亜由美1, 江川達郎1, 関根圭一1, 佐近一翔1, 大島里詠子1, 津田諭志1, 林達也1 (1.京都大学大学院人間・環境学研究科, 2.豊橋創造大学大学院健康科学研究科)

Keywords:骨格筋, 熱刺激, AMPK

【はじめに,目的】

日本は超高齢化社会を迎え,今後さらに高齢者人口の増加が見込まれる。厚生労働省の「平成25年国民健康・栄養調査」では,糖尿病有病者(糖尿病が強く疑われる者)の割合は加齢に伴い増加することが発表された。糖尿病は心筋梗塞や脳血管障害などの動脈硬化性疾患の発症リスクを増加させ,活動量の低下や寝たきりを誘発する原因となり得る。したがって,高齢者の糖尿病予防や改善は寝たきり防止に重要である。これまでに,入浴や遠赤外線サウナなどの熱刺激が,糖尿病患者の血糖値を減少させること,さらにラット単離筋に短時間の熱刺激(42℃)を与えることで骨格筋糖輸送が亢進することが報告されている。したがって,骨格筋への熱刺激が骨格筋糖輸送を活性化させ,全身の糖代謝を改善することが考えられる。しかしながら,熱刺激による骨格筋糖輸送活性の亢進メカニズムは不明である。

そこで本研究の目的は,短時間の熱刺激が骨格筋輸送活性に及ぼす影響を,ラット単離筋を用いて評価・検討することとした。

【方法】

Sprague-Dawley rat(雄性,~150g)から滑車上筋を取り出し,培養液中で42℃の熱刺激を10分あるいは30分与え,刺激終了直後の骨格筋代謝変化を評価・検討した。

【結果】

骨格筋細胞内エネルギー状態の指標であるクレアチンリン酸,ATP,グリコーゲン含有量は熱刺激により減少した。急性的な骨格筋の代謝変化を引き起こす5'-AMP-activated protein kinase(AMPK)αのThr172リン酸化と酵素活性(AMPKα1ならびにAMPKα2)は熱刺激後10分で亢進した。一方,骨格筋糖代謝促進に関与する経路であるインスリン受容体シグナル経路およびCa2+/カルモジュリン依存プロテインキナーゼIIを介したシグナル経路は,熱刺激による変化が認められなかった。骨格筋糖輸送活性の指標である3-O-methyl-D-glucose(3MG)取り込み率は,熱刺激により増加が認められた。さらに,AMPKの阻害剤であるdorsomorphin(Compound C)を添加することで,熱刺激による3MG取り込み率増加は抑制された。また,熱刺激後のグリコーゲン合成速度は増加することが確認された。

【結論】

本研究では,骨格筋への短時間の熱刺激が骨格筋糖輸送活性を促進すること,さらにその作用機序として,骨格筋細胞内エネルギー低下に伴うAMPKの活性が関与していることを示した。本研究の結果は,短時間の熱刺激が2型糖尿病やメタボリックシンドロームなど糖代謝疾患の治療や予防を目的とした新規治療法になる可能性を示唆する基礎的知見である。さらには怪我や疾病,加齢により自発的な運動が困難な人へ対する骨格筋糖代謝機能の維持・改善に対する治療法の一つに,短時間の熱刺激が有用である可能性も示唆された。