第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題ポスター
基礎P36

2016年5月29日(日) 10:00 〜 11:00 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-KS-36-2] 低酸素培養による間葉系幹細胞の神経保護効果

大塚貴志1, 富安真弓1, 猪村剛史1, 大鶴直史1, 齋藤幹剛1, 松尾直1, 武田正明2, 高橋信也3, 中川慧1, 谷本圭司4, 河原裕美5, 弓削類1,5 (1.広島大学大学院生体環境適応科学教室, 2.広島大学大学院脳神経外科学教室, 3.広島大学病院医科第一外科, 4.広島大学原爆放射線医科学研究所, 5.(株)スペース・バイオ・ラボラトリーズ)

キーワード:間葉系幹細胞, 低酸素, 神経保護

【はじめに,目的】間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cells:MSCs)は,神経保護因子を放出することや,多分化能を有することなどから,神経損傷に対する再生医療のソースとして期待されている。臨床研究を目指した報告の中で,移植効果をより高めるために,移植先を想定した環境に予め暴露するプレコンディショニング研究が進められている。その一つとして,低酸素プレコンディショニングが挙げられる。先行研究において,低酸素プレコンディショニングは,虚血性神経疾患に対しての有用性が報告されている。しかしこれらの研究は,移植したMSCs自体の損傷部への遊走能や移植後の生存率に着目したものが多く,神経保護効果に与える影響を検討しているものは少ない。そこで本研究では,低酸素環境下で培養したMSCsの神経保護効果を通常酸素環境下で培養したものと比較検討することを目的とした。

【方法】Sprague-Dawleyラットより採取したMSCsを通常酸素環境下(21%)および低酸素環境下(1%)で24時間培養し,各条件において神経保護因子(VegfBdnfGdnf)の遺伝子発現をreal-time RT-PCR法を用いて検討した。また,各条件における培養上清を回収し,過酸化水素水およびリポ多糖により細胞死を誘導した神経芽細胞腫(NG108-15)に各上清が与える影響を,トリパンブルー染色を用いて検討した。さらにvivoにおける神経保護効果を検討するために,Sprague-Dawleyラットに対して,weight dropping法を用いて脊髄損傷モデルを作製し,損傷24時間後に尾静脈よりMSCsを移植した。低酸素環境下で培養したMSCsを移植した群をH-MSCs群,通常酸素環境で培養したMSCsを移植した群をN-MSCs群,PBSのみを注射した群をControl群とした。運動機能評価としてBasso-Beattie-Bresnahan scoreおよびInclined Plane Testを,損傷前,細胞移植前,細胞移植1~7,14,21日後に行った。

【結果】低酸素環境下で培養したMSCsにおいて,神経保護因子の一つであるVegfの有意な発現増加が認められた。また,低酸素環境下で培養したMSCsの培養上清は,過酸化水素水およびリポ多糖暴露によるNG108-15の細胞死を有意に抑制した。脊髄損傷モデルを用いたvivoでの検討においても,H-MSCs群の運動機能は,N-MSCs群・Control群と比較して改善した。

【結論】MSCsの低酸素プレコンディショニングによって,神経保護因子の遺伝子発現が増大し,細胞死を抑制することが示された。さらに脊髄損傷モデルへの移植研究においても,運動機能の有意な改善が認められた。このことから,MSCsの低酸素プレコンディショニングは移植効果を高める手段として有用である可能性が示唆された。