第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題ポスター
基礎P37

2016年5月29日(日) 10:00 〜 11:00 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-KS-37-2] 有酸素運動による中枢性感作および中枢性疼痛抑制作用への影響

―異なる運動強度による中枢性疼痛修飾効果の比較―

藤井裕也1, 鈴木亨1, 中田健太1, 山口修平1, 山本亜沙美1, 城由起子2, 松原貴子1 (1.日本福祉大学健康科学部, 2.名古屋学院大学リハビリテーション学部)

キーワード:疼痛抑制, 有酸素運動, 中枢性疼痛修飾系

【はじめに,目的】近年,有酸素運動の疼痛抑制(exercise-induced hypoalgesia:EIH)効果に関する報告が多く見受けられる。有酸素運動によるEIH効果は強度と時間に依存するという報告もあるが(Koltyn 2002,Hoffman 2004),EIHを誘導する有効な運動様式やそのメカニズムについて未だ一定した見解は得られていない。我々はこれまでに,低強度の有酸素運動によっても即時的な痛覚感受性低下がみられることを報告した(岩佐 2015)が,中枢性疼痛修飾系への影響および運動強度による違いまで検討するに至っていない。一方,近年,中枢性疼痛修飾系の指標として,中枢性感作を示すtemporal summation(TS)や中枢性疼痛抑制作用を反映するconditioned pain modulation(CPM)を用いた検証が行われている(Kong 2012,Nielsen 2009)。そこで本研究は,異なる運動強度の有酸素運動による中枢性疼痛修飾系への影響について,TSとCPMを調べ,比較検討した。

【方法】対象は健常男性19名(19.7±1.3歳)とし,トレッドミルによる有酸素運動を40%HRR(低強度運動),60%HRR(中強度運動),75%HRR(高強度運動)の3強度とし,全強度の運動をそれぞれ別日に15分間,無作為に実施した。評価項目はTS,CPMとし,運動前後(pre,post0)と15分後(post15)に計測した。TSは非利き手側の前腕背側に熱痛覚閾値+2℃の熱刺激を刺激間隔2秒で10回与え,各回の熱痛強度をVASにて測定し,刺激1~4,5~7,8~10回目の各平均値をそれぞれVAS-I,II,IIIとして算出した。CPMはTS計測直後に利き手の手部を3~5℃の冷水に1分間浸漬した後,再びTSを計測し,VAS-IをCPM効果指標とした。統計学的解析は,TSおよびCPM効果の経時的変化に,Friedman検定とTukey-typeの多重比較検定を用い,有意水準は5%未満とした。

【結果】TSはVAS-I,IIはすべての運動強度で明らかな変化を示さなかったが,VAS-IIIは低強度運動と中強度運動でpreと比較しpost0で有意な減少を示し,さらに低強度運動ではpost15でも減少を認めた。一方,CPMは,冷水浸漬後のVAS-Iが高強度運動ではpreと比較しpost0とpost15で,中強度運動ではpost15で有意な減少を示した。

【結論】今回,15分間の有酸素運動では,低・中強度運動により上行性の侵害受容入力の増幅や中枢性感作を反映するとされるTSが抑制され,低強度ほどその抑制効果は持続した。一方,CPMは侵害刺激入力を下行性に抑制する中枢性疼痛抑制作用を反映し,その効果は持続性を含め高・中強度運動によって著明な増強を示した。以上のことから,有酸素運動による疼痛抑制効果には中枢性の疼痛修飾系が関与すると考えられるが,その作用機序は運動強度により異なる可能性が示唆された。