[P-KS-38-1] 一側足関節可動域制限が歩行の変動性に及ぼす影響
キーワード:歩行, フラクタル性, 足関節可動域制限
【はじめに,目的】
近年,生体力学の分野では動作の変動の質的な側面に着目し,健常な生体システムから出力される変動は決定論的な性質(フラクタル性)を持ち,長時間相関を示すことが注目されている。この長時間相関の強さを表わす値としてフラクタルスケーリング指数(以下,α)が用いられ,健常者の歩行においてストライド時間(Stride Interval:以下,SI)のαは,快適スピードから遠ざかるほど高値を示すことが明らかにされている。しかし,関節可動域制限が歩行の変動パターンに及ぼす影響はこれまでのところ明らかにされていない。
そこで本研究は,一側足関節可動域制限がSIおよびセグメント角速度の変動性に及ぼす影響を明らかにすることを目的として行った。
【方法】
被験者は下肢に重篤な整形外科的疾患を有さない健常成人男性13人(年齢:22.3±1.5歳)であった。課題動作は快適スピードでの平地歩行とし,通常歩行条件(以下,条件N)と,ダブルクレンザック足継ぎ手付き短下肢装具を装着し,右足関節を底屈5°,背屈5°に制限した歩行条件(以下,条件S)の2条件で計測した。計測は20分間行い,下腿,大腿の加速度および角速度データを,各セグメントの遠位70%の部位に装着した8チャンネル小型無線モーションレコーダ(マイクロストーン社製)を用いて取得した。MatLab R2014a(MathWorks社製)を使用してDetrended Fluctuation Analysisを行い,SI,各セグメントの立脚期,遊脚期の最大角速度のαを算出した。統計学的解析にはソフトウェアSPSS Ver.22.0(IBM社製)を用い,データの正規性を確認した後,対応のあるt検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
SIのαは条件Sが条件Nよりも有意に高値を示した(条件N:0.75±0.13,条件S:0.84±0.11,p<0.05)。角速度のαは,非制限側の下腿の遊脚期(条件N:0.70±0.08,条件S:0.76±0.09),大腿の遊脚期(条件N:0.65±0.10,条件S:0.70±0.08),制限側の下腿の遊脚期(条件N:0.72±0.09,条件S:0.80±0.05)において条件Sが条件Nよりも有意に高値を示した(p<0.05)。
【結論】
長時間相関は絶えず変化する状況に対する適応性を反映すると考えられており(Goldberger AL,2002),熟練された動作では,不慣れな状況に適応するとαが高値を示すことが明らかにされている(Nonaka T,2014)。本研究で示されたSIから,一側の足関節可動域に制限を受けた状況に適応し,歩行を遂行したことが示唆された。また,得られた角速度から,制限側のアンクルロッカー機能の低下や蹴り出しが困難となり,下腿の角速度産生が損なわれても,制限された足関節以外の関節が補完的に下肢セグメントの運動を制御して適応を図る運動パターンが示された。
さらに,動作の変動性をフラクタル性から捉えることにより動作を行う環境条件への適応性を評価できる可能性を示唆した。
近年,生体力学の分野では動作の変動の質的な側面に着目し,健常な生体システムから出力される変動は決定論的な性質(フラクタル性)を持ち,長時間相関を示すことが注目されている。この長時間相関の強さを表わす値としてフラクタルスケーリング指数(以下,α)が用いられ,健常者の歩行においてストライド時間(Stride Interval:以下,SI)のαは,快適スピードから遠ざかるほど高値を示すことが明らかにされている。しかし,関節可動域制限が歩行の変動パターンに及ぼす影響はこれまでのところ明らかにされていない。
そこで本研究は,一側足関節可動域制限がSIおよびセグメント角速度の変動性に及ぼす影響を明らかにすることを目的として行った。
【方法】
被験者は下肢に重篤な整形外科的疾患を有さない健常成人男性13人(年齢:22.3±1.5歳)であった。課題動作は快適スピードでの平地歩行とし,通常歩行条件(以下,条件N)と,ダブルクレンザック足継ぎ手付き短下肢装具を装着し,右足関節を底屈5°,背屈5°に制限した歩行条件(以下,条件S)の2条件で計測した。計測は20分間行い,下腿,大腿の加速度および角速度データを,各セグメントの遠位70%の部位に装着した8チャンネル小型無線モーションレコーダ(マイクロストーン社製)を用いて取得した。MatLab R2014a(MathWorks社製)を使用してDetrended Fluctuation Analysisを行い,SI,各セグメントの立脚期,遊脚期の最大角速度のαを算出した。統計学的解析にはソフトウェアSPSS Ver.22.0(IBM社製)を用い,データの正規性を確認した後,対応のあるt検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
SIのαは条件Sが条件Nよりも有意に高値を示した(条件N:0.75±0.13,条件S:0.84±0.11,p<0.05)。角速度のαは,非制限側の下腿の遊脚期(条件N:0.70±0.08,条件S:0.76±0.09),大腿の遊脚期(条件N:0.65±0.10,条件S:0.70±0.08),制限側の下腿の遊脚期(条件N:0.72±0.09,条件S:0.80±0.05)において条件Sが条件Nよりも有意に高値を示した(p<0.05)。
【結論】
長時間相関は絶えず変化する状況に対する適応性を反映すると考えられており(Goldberger AL,2002),熟練された動作では,不慣れな状況に適応するとαが高値を示すことが明らかにされている(Nonaka T,2014)。本研究で示されたSIから,一側の足関節可動域に制限を受けた状況に適応し,歩行を遂行したことが示唆された。また,得られた角速度から,制限側のアンクルロッカー機能の低下や蹴り出しが困難となり,下腿の角速度産生が損なわれても,制限された足関節以外の関節が補完的に下肢セグメントの運動を制御して適応を図る運動パターンが示された。
さらに,動作の変動性をフラクタル性から捉えることにより動作を行う環境条件への適応性を評価できる可能性を示唆した。