[P-KS-38-3] 正常歩行における下腿座標系上の円弧状圧中心軌跡と歩行周期の関係
Keywords:座標変換, 圧中心, 歩行周期
【はじめに,目的】
下肢機能に障害が発生すると歩行動作は顕著に阻害され,下肢機能の代償として義足や装具が用いられることがあるが,その中でも足部機能を代償したものが多い。近年の研究で,歩行時の足部転がり運動に伴う足圧中心の軌跡を絶対空間ではなく身体座標系上の点として測定することにより,機能的な足底形状を持つ義足や装具の可能性が示唆されている。しかし正常歩行における機能的足底形状の詳細が十分に明らかになっているわけではない。そこで本研究では足関節を原点とする身体座標系(今回は下腿座標系)上での足圧中心軌跡と歩行パターンの関係を明らかにすることを目的とした。
【方法】
神経学的及び整形外科的疾患の既往のない健常成人男性10名を対象にした。被験者は赤外線反射マーカーを全身に張り付けて8mの歩行路を5速度で歩行した。データ計測には2枚の床反力計と三次元動作解析装置を用いた。測定されたデータは下腿座標系に座標変換された。下腿座標系上で片脚立脚時の足圧中心軌跡を求め,歩行周期の各インシデント(踵接地,足底接地,Heel rise,反対側踵接地,中足骨頭離地(以下MP rise),足尖離地)との対応関係を調べた。
【結果】
足圧中心軌跡は,どの速度でも下方凸の円弧形状を示したが,立脚の最終部分には変曲点があり円弧から逸脱して下方に向かう一貫した形状を示した。しかし高速度歩行では一部の被験者でややバラつきが増大した。この足圧中心軌跡上で,「足底接地」は普通以下の速度では縦軸の位置で生じたが,速い速度では一部の被験者では下腿軸より前方へ移動する傾向があった。「Heel rise」は普通以下の速度では円弧範囲の後半で生じたが,速い速度では円弧範囲終点に移動する傾向があった。「反対側踵接地」は普通以下の速度では変曲点上で生じたが,速い速度条件では変曲点を超えて下方に移動していた。「MP rise」は普通以下の速度では変曲点を越えて下降した最下点付近で生じたが,速い速度条件ではMP riseと同時か,あるいはMP riseに先行して生じた。また速い速度になるほど立脚期全体に対する円弧形状を示す時間割合は縮小する傾向にあった。
【結論】
自動歩行モデルなどの先行研究から機能的足底形状(円弧形状足部)での歩行は滑らかな歩行を実現することが示されてきた。今回,健常成人を対象とした歩行において「反対側踵接地の位置」が足圧中心軌跡の「円弧を示す範囲」と一致したことは,人の歩行でも足部の転がり運動を最大限に利用していることを再確認する結果になった。しかし,速度条件が速くなった際の一部の被験者のバラつきや,「反対側踵接地の位置」の変化を考慮すると,機能的足底形状には速度による制約があり,低速から普通速度の歩行では成立するが,高速歩行では成立しないかもしれない。
下肢機能に障害が発生すると歩行動作は顕著に阻害され,下肢機能の代償として義足や装具が用いられることがあるが,その中でも足部機能を代償したものが多い。近年の研究で,歩行時の足部転がり運動に伴う足圧中心の軌跡を絶対空間ではなく身体座標系上の点として測定することにより,機能的な足底形状を持つ義足や装具の可能性が示唆されている。しかし正常歩行における機能的足底形状の詳細が十分に明らかになっているわけではない。そこで本研究では足関節を原点とする身体座標系(今回は下腿座標系)上での足圧中心軌跡と歩行パターンの関係を明らかにすることを目的とした。
【方法】
神経学的及び整形外科的疾患の既往のない健常成人男性10名を対象にした。被験者は赤外線反射マーカーを全身に張り付けて8mの歩行路を5速度で歩行した。データ計測には2枚の床反力計と三次元動作解析装置を用いた。測定されたデータは下腿座標系に座標変換された。下腿座標系上で片脚立脚時の足圧中心軌跡を求め,歩行周期の各インシデント(踵接地,足底接地,Heel rise,反対側踵接地,中足骨頭離地(以下MP rise),足尖離地)との対応関係を調べた。
【結果】
足圧中心軌跡は,どの速度でも下方凸の円弧形状を示したが,立脚の最終部分には変曲点があり円弧から逸脱して下方に向かう一貫した形状を示した。しかし高速度歩行では一部の被験者でややバラつきが増大した。この足圧中心軌跡上で,「足底接地」は普通以下の速度では縦軸の位置で生じたが,速い速度では一部の被験者では下腿軸より前方へ移動する傾向があった。「Heel rise」は普通以下の速度では円弧範囲の後半で生じたが,速い速度では円弧範囲終点に移動する傾向があった。「反対側踵接地」は普通以下の速度では変曲点上で生じたが,速い速度条件では変曲点を超えて下方に移動していた。「MP rise」は普通以下の速度では変曲点を越えて下降した最下点付近で生じたが,速い速度条件ではMP riseと同時か,あるいはMP riseに先行して生じた。また速い速度になるほど立脚期全体に対する円弧形状を示す時間割合は縮小する傾向にあった。
【結論】
自動歩行モデルなどの先行研究から機能的足底形状(円弧形状足部)での歩行は滑らかな歩行を実現することが示されてきた。今回,健常成人を対象とした歩行において「反対側踵接地の位置」が足圧中心軌跡の「円弧を示す範囲」と一致したことは,人の歩行でも足部の転がり運動を最大限に利用していることを再確認する結果になった。しかし,速度条件が速くなった際の一部の被験者のバラつきや,「反対側踵接地の位置」の変化を考慮すると,機能的足底形状には速度による制約があり,低速から普通速度の歩行では成立するが,高速歩行では成立しないかもしれない。