第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題ポスター
基礎P41

2016年5月29日(日) 11:10 〜 12:10 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-KS-41-1] テンポの変化が打鍵時の上肢及び手指の運動制御に与える影響

小林章1,2, 青木健太3, 園尾萌香4, 国分貴徳5, 高柳清美5, 金村尚彦5 (1.埼玉県立大学大学院保健医療福祉学研究科リハビリテーション学専修, 2.医療法人研整会松田整形外科リハビリテーション科, 3.医療法人一成会さいたま記念病院リハビリセンター, 4.医療法人名圭会白岡整形外科リハビリテーション科, 5.埼玉県立大学保健医療福祉学部理学療法学科)

キーワード:打鍵動作解析, 運動制御, ピアニスト

【はじめに,目的】

ピアニストは幼い頃より練習を積み重ね,長期間の練習のために腱鞘炎や手根管症候群で悩まされることが少なくない。これらは主に過用が原因とされ,症状改善のために“練習を休む事”が言い渡される。しかしながら,近年では単純なオーバーユースに加え,誤った身体の使い方によっても障がいが生じると指摘されている。古屋らによれば,打鍵時,近位関節を積極的に用いて手指へ効率的に力を伝達し,末梢の耐疲労性を得ていると報告した。誤用が障害発生の要因の一つであり,ピアニストが有する打鍵動作に特化した上肢の運動戦略が解明されれば,運動療法を駆使して治療を行う理学療法士に介入の可能性が広がる。従って本研究の目的は,テンポを変化させた打鍵動作の効率性を運動学的観点から調査することである。

【方法】

計測には3次元動作解析装置VICONを使用した。肩関節から手関節までの角度をPlug-in-gaitモデルを用いて算出,手指関節角度は各マーカーの位置座標から先行研究を参考に余弦定理を用いて算出した。対象者は右利きのピアノ未経験者6名(年齢25.6±4.4歳)とした。実験課題は右手中指で鍵盤を100,120,140,160bpmで50回打鍵し,内40回を解析対象とした。解析区間は中指MCPマーカーの最高点から鍵盤の最下点とした。関節寄与率はestΔTIP/ΔTIPにより算出し,関節効率性(τ)は各関節のestΔTIPの合計をその絶対値の合計で除し算出した(Goeblら,2013)。打鍵テンポが最も良かった1名(A),最も悪かった1名(B)及び全被験者の平均を比較した。

【結果】

テンポが速くなるにつれて(値はそれぞれ100,160bpmの値),Bと比較してAは肩関節(A:0.01±0.02,0.48±0.38,B:0.10±0.04,0.07±0.04),PIP関節(A:0.10±0.08,0.72±0.17,B:0.13±0.02,0.12±0.02)の寄与度が大きくなる傾向があった。一方,手関節(A:0.42±0.22,-0.79±0.67,B:0.10±0.06,0.21±0.05),MCP関節(A:0.05±0.10,-0.88±0.42,B:-0.07±0.03,-0.16±0.03)の寄与度は小さくなる傾向があった。

また打鍵効率性は,被験者A(0.85±0.16,0.37±0.10)は低下していく傾向があるが,被験者B(0.81±0.04,0.67±0.04)は大きな変化は見られなかった。

【結論】

打鍵動作解析は,手指のみ,あるいは上肢のみの研究が多く行われているが,肩関節から手指先端まで含めた解析は少ない。最も正確に打鍵できたAはテンポが速くなるにつれて末梢関節から近位関節を用いる傾向があった。一方,Bはテンポが速くなるにつれてキーストロークに寄与する関節が抹消に移行する傾向があった。Aは素早く打鍵するためにサイズの大きな筋を用いていると考えられる。

一見するとBの方が打鍵効率は良いが,テンポによらず打鍵戦略に変化はない。Bは末梢関節の寄与率が大きく,易疲労性を示す可能性がある。またPIP関節はAに比べBは打鍵時に伸展し,DIP関節や深指屈筋腱に力学的ストレスが増大する可能性がある。