[P-KS-41-2] 手指屈曲運動での手根管部正中神経の移動と変形
Keywords:屈筋腱滑動, 正中神経, エコー
【はじめに,目的】
手根管症候群(carpal tunnel syndrome:CTS)は,最も頻度の多い絞扼性末梢神経障害である。しかし,特発性CTSの詳しい発症のメカニズムは明らかではない。近年,健常者の手根管部の正中神経は,手指屈曲で屈筋腱の影響により移動する事がエコーを用いて報告されている。過去の報告では側方移動に関してのものが多く,手指屈曲運動により正中神経へのストレスが示唆されている。一方我々は側方のみではなく深部への移動や正中神経そのものの変形も手指屈曲運動によって起こりうることを観察している。そこで本研究はエコーを用いて全ての手指の屈曲時における正中神経の側方・深部への移動や正中神経の変形を評価することにより,正中神経がどのような動態になるかを明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象者は,CTSや手関節に外傷の既往が無い身長160cm台の20歳から25歳の男性10名,女性10名の右20手とした。対象者の手の大きさ(中指先端と手関節クリーゼ線の長さ),前腕長を測定した。エコー評価は,東芝製Xario,12MHzプローブを使用し,エコーBモードで測定した。測定肢位は手関節中間位,肘関節屈曲位,前腕回外位とした。短軸像で手根管inletである舟状骨と豆状骨の頂上間距離を測定し手根管の大きさの指標とした。次に各指の伸展位から屈曲位(hook grip)までの動画を保存し,正中神経の移動距離を同一の計測点より測定した。変形は扁平比(正中神経の長径を短径で除したもの)を算出し,変化量をパーセントで示した変形率(伸展時扁平比と屈曲時扁平比の差の絶対値を安静時扁平比で除したもの)で算出した。統計処理はtukey法の多重比較検定を用い,危険率は5%未満とした。
【結果】
手の大きさ,前腕長,エコーでの舟状骨と豆状骨の頂上間距離に大きな差はなく,男女間の有意差はなかった。手指伸展位から屈曲を行った際の側方・深部への正中神経移動距離は,中指がそれぞれ平均1.62mm,0.89mmと最も大きく動き,次に示指が大きかった。中指と小指間にそれぞれ有意差を認めた(p<0.05)。正中神経変形率は示指屈曲時が平均42.9%と最も大きな変化を示し,次に中指が平均28.2%と大きかった。示指と環指,示指と小指間に有意差を認めた(p<0.05)。
【結論】
本研究の結果,示指と中指の手指屈曲運動が手根管内の正中神経の移動距離や正中神経そのものの変形に最も影響を与えることが示された。示指・中指は手根管部で正中神経の近傍を走行していることに加え,指の長さから屈筋腱の滑動距離が比較的大きいことが今回の結果に影響したと推測される。特発性CTSは近年,滑膜下結合組織の変性,線維化などを認めることが報告されているが,これらの変化に至るメカニズムは不明である。今回の正中神経の動態より示指や中指の浅・深指屈筋腱の滑動が正中神経にストレスを与えている可能性があるが,健常者を対象としているため特発性CTSの動態も今後検討すべきである。
手根管症候群(carpal tunnel syndrome:CTS)は,最も頻度の多い絞扼性末梢神経障害である。しかし,特発性CTSの詳しい発症のメカニズムは明らかではない。近年,健常者の手根管部の正中神経は,手指屈曲で屈筋腱の影響により移動する事がエコーを用いて報告されている。過去の報告では側方移動に関してのものが多く,手指屈曲運動により正中神経へのストレスが示唆されている。一方我々は側方のみではなく深部への移動や正中神経そのものの変形も手指屈曲運動によって起こりうることを観察している。そこで本研究はエコーを用いて全ての手指の屈曲時における正中神経の側方・深部への移動や正中神経の変形を評価することにより,正中神経がどのような動態になるかを明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象者は,CTSや手関節に外傷の既往が無い身長160cm台の20歳から25歳の男性10名,女性10名の右20手とした。対象者の手の大きさ(中指先端と手関節クリーゼ線の長さ),前腕長を測定した。エコー評価は,東芝製Xario,12MHzプローブを使用し,エコーBモードで測定した。測定肢位は手関節中間位,肘関節屈曲位,前腕回外位とした。短軸像で手根管inletである舟状骨と豆状骨の頂上間距離を測定し手根管の大きさの指標とした。次に各指の伸展位から屈曲位(hook grip)までの動画を保存し,正中神経の移動距離を同一の計測点より測定した。変形は扁平比(正中神経の長径を短径で除したもの)を算出し,変化量をパーセントで示した変形率(伸展時扁平比と屈曲時扁平比の差の絶対値を安静時扁平比で除したもの)で算出した。統計処理はtukey法の多重比較検定を用い,危険率は5%未満とした。
【結果】
手の大きさ,前腕長,エコーでの舟状骨と豆状骨の頂上間距離に大きな差はなく,男女間の有意差はなかった。手指伸展位から屈曲を行った際の側方・深部への正中神経移動距離は,中指がそれぞれ平均1.62mm,0.89mmと最も大きく動き,次に示指が大きかった。中指と小指間にそれぞれ有意差を認めた(p<0.05)。正中神経変形率は示指屈曲時が平均42.9%と最も大きな変化を示し,次に中指が平均28.2%と大きかった。示指と環指,示指と小指間に有意差を認めた(p<0.05)。
【結論】
本研究の結果,示指と中指の手指屈曲運動が手根管内の正中神経の移動距離や正中神経そのものの変形に最も影響を与えることが示された。示指・中指は手根管部で正中神経の近傍を走行していることに加え,指の長さから屈筋腱の滑動距離が比較的大きいことが今回の結果に影響したと推測される。特発性CTSは近年,滑膜下結合組織の変性,線維化などを認めることが報告されているが,これらの変化に至るメカニズムは不明である。今回の正中神経の動態より示指や中指の浅・深指屈筋腱の滑動が正中神経にストレスを与えている可能性があるが,健常者を対象としているため特発性CTSの動態も今後検討すべきである。