[P-MT-01-2] 人工膝関節全置換術後のQOLと歩行特性との関連性
歩行立脚期の膝関節運動に着目した多変量解析
キーワード:人工膝関節全置換術, QOL, 歩行
【はじめに,目的】
近年,人工膝関節全置換術(TKA)の臨床成績は,患者の視点でQOLを評価する日本版変形性膝関節症評価尺度(JKOM)などの患者立脚型評価が重要視されている。TKA術後のJKOMは,10m歩行テストなどを指標とした歩行能力に影響を受けることが報告されているが(神田2008),関節運動パターンや外部負荷などの歩行特性との関連性はほとんど検討されていない。一方で,立脚期の膝関節運動範囲は,変形性膝関節症(膝OA)の発症・進行に関与すること(McCarly 2013,Jenkyen 2008)や,TKA術後も健常者と比較し減少していること(井野2013)が報告されており,TKA術後のQOLに影響を及ぼす可能性が推測される。
本研究の目的は,JKOMを指標としたTKA術後のQOLと,歩行立脚期の膝関節運動との関連性を明らかにすることである。
【方法】
対象は内側型膝OAに対して初回片側TKAを行った30名とした(男性2名,女性28名,平均年齢77.7歳±3.7歳)。
歩行立脚期の膝関節運動の計測に際して,至適速度での5mの直線歩行を課題とし,デジタルカメラ(CASIO社製EXILIM EX-ZS10)で歩行中の矢状面映像を3施行撮影した。撮影した映像をVirtualDub-1.9.11で静止画へ変換した後,ImageJ1.45を用いて膝関節角度を計測した。角度計測は,手術側立脚期の初期接地(IC),荷重応答期の対側足部離床直前(LR),立脚中期の両下腿交差の50%時点(MS),立脚後期の対側足部接地直前(TS)の4つの時点で,大転子,外側上顆,腓骨頭,外果に添付したマーカーを指標に計測した。得られたデータをもとにIC,LR,MS,TSごとの角度変化量を算出した。なお,計測精度に関しては,我々の先行研究で計測誤差が2.1±1.4°であることを確認している。
JKOMの評価は,膝痛のVisual Analog Scale(VAS)を除く,設問25項目の総合得点をQOLの指標とした。
統計学的処理は,JKOM総合得点を従属変数,歩行立脚期の膝関節角度と,これに影響を及ぼす交絡因子(歩行時痛のVASと膝関節可動域)を独立変数とした重回帰分析(stepwise法)を行った。
【結果】
多変量解析の結果,JKOM総合得点に影響を及ぼす因子として,ICからLRまでの膝屈曲角度(標準偏回帰係数:-0.47)と歩行時痛のVAS(標準偏回帰係数:0.42)が抽出された(R2=0.38,p<0.01)。
【結論】
本研究で,立脚初期の膝関節運動の減少が,歩行時痛と独立した因子としてQOLに影響を及ぼすことが明らかとなった。膝OA者における立脚初期膝関節運動の減少は,床反力鉛直成分の第1ピークの減少や遅延,Dynamic Joint Stiffness(立脚初期の膝関節の硬さ)の増大(Zeni 2009)と関連して,疼痛の主要因であるメカニカルストレスを回避するための対応である可能性が指摘されており(木藤2014),膝OAの歩行特性を反映するものと推測される。以上のことから,TKA術後のQOLを改善する上で,歩行時痛のみならず,立脚初期膝関節運動の減少といった膝OAの歩行特性に着目することの重要性が示唆された。
近年,人工膝関節全置換術(TKA)の臨床成績は,患者の視点でQOLを評価する日本版変形性膝関節症評価尺度(JKOM)などの患者立脚型評価が重要視されている。TKA術後のJKOMは,10m歩行テストなどを指標とした歩行能力に影響を受けることが報告されているが(神田2008),関節運動パターンや外部負荷などの歩行特性との関連性はほとんど検討されていない。一方で,立脚期の膝関節運動範囲は,変形性膝関節症(膝OA)の発症・進行に関与すること(McCarly 2013,Jenkyen 2008)や,TKA術後も健常者と比較し減少していること(井野2013)が報告されており,TKA術後のQOLに影響を及ぼす可能性が推測される。
本研究の目的は,JKOMを指標としたTKA術後のQOLと,歩行立脚期の膝関節運動との関連性を明らかにすることである。
【方法】
対象は内側型膝OAに対して初回片側TKAを行った30名とした(男性2名,女性28名,平均年齢77.7歳±3.7歳)。
歩行立脚期の膝関節運動の計測に際して,至適速度での5mの直線歩行を課題とし,デジタルカメラ(CASIO社製EXILIM EX-ZS10)で歩行中の矢状面映像を3施行撮影した。撮影した映像をVirtualDub-1.9.11で静止画へ変換した後,ImageJ1.45を用いて膝関節角度を計測した。角度計測は,手術側立脚期の初期接地(IC),荷重応答期の対側足部離床直前(LR),立脚中期の両下腿交差の50%時点(MS),立脚後期の対側足部接地直前(TS)の4つの時点で,大転子,外側上顆,腓骨頭,外果に添付したマーカーを指標に計測した。得られたデータをもとにIC,LR,MS,TSごとの角度変化量を算出した。なお,計測精度に関しては,我々の先行研究で計測誤差が2.1±1.4°であることを確認している。
JKOMの評価は,膝痛のVisual Analog Scale(VAS)を除く,設問25項目の総合得点をQOLの指標とした。
統計学的処理は,JKOM総合得点を従属変数,歩行立脚期の膝関節角度と,これに影響を及ぼす交絡因子(歩行時痛のVASと膝関節可動域)を独立変数とした重回帰分析(stepwise法)を行った。
【結果】
多変量解析の結果,JKOM総合得点に影響を及ぼす因子として,ICからLRまでの膝屈曲角度(標準偏回帰係数:-0.47)と歩行時痛のVAS(標準偏回帰係数:0.42)が抽出された(R2=0.38,p<0.01)。
【結論】
本研究で,立脚初期の膝関節運動の減少が,歩行時痛と独立した因子としてQOLに影響を及ぼすことが明らかとなった。膝OA者における立脚初期膝関節運動の減少は,床反力鉛直成分の第1ピークの減少や遅延,Dynamic Joint Stiffness(立脚初期の膝関節の硬さ)の増大(Zeni 2009)と関連して,疼痛の主要因であるメカニカルストレスを回避するための対応である可能性が指摘されており(木藤2014),膝OAの歩行特性を反映するものと推測される。以上のことから,TKA術後のQOLを改善する上で,歩行時痛のみならず,立脚初期膝関節運動の減少といった膝OAの歩行特性に着目することの重要性が示唆された。