[P-MT-01-6] 体幹の加速度・角速度を指標とした人工膝関節全置換術による歩容変化の分析
キーワード:二乗平均平方根, Root Mean Square ratio, 自己相関係数
【はじめに,目的】
近年,変形性膝関節症(Knee osteoarthritis,膝OA)の患者数の増加に伴い,客観的な歩行分析の重要性が指摘されている。膝OA患者では,歩行時に体幹の側方動揺により膝関節に作用する外的な内反モーメントを減少させることが報告されている。人工膝関節全置換術(total knee arthroplasty,TKA)による疼痛や下肢アライメントの改善は,歩行時の体幹動揺も改善すると考えられる。しかし,TKAによる歩行時の体幹動揺の変化を検討した報告は少なく,明らかになっていない。本研究の目的は,小型の加速度計・角速度計を用い,膝OA患者のTKAによる歩行時の体幹動揺の変化を明らかにすることである。
【方法】
対象は膝OAを呈し,片側もしくは両側にTKAを施行した18名(男性6名,女性12名,片側16名,両側2名)であった。平均年齢とBMIはそれぞれ,72±9歳,25.9±2.0 kg/m2であった。Kellgren-Lawrence分類は,StageIII8名,IV10名であり,Femoral Tibia Angleは術前179.2±9.0°,術後171.8±4.0°であった。術前とTKA4週後に3軸の加速度計・角速度計を第7頸椎と第3腰椎,患側の腓骨外果に貼付し,歩行時の体幹動揺を計測した。歩行条件は,快適速度における16m歩行とし,中央の5歩行周期を分析対象とした。得られたデータから,体幹動揺の総和である二乗平均平方根(Root Mean Square,RMS)と各方向のRMSがRMSの総和に占める割合(RMS ratio,RMSR)を算出した。また,歩行の規則性を,自己相関係数を用いて分析した。
【結果】
歩行速度は,TKA前0.96±0.18 m/s,TKA後1.00±0.19 m/sであり,有意差を認めなかった(P=0.282)。RMSの比較では,頚部・腰部ともに,TKA前後で有意な変化を認めなかった。一方,左右方向の加速度のRMSRは,頚部ではTKAにより0.55±0.11 m/s2から0.52±0.12 m/s2に(P=0.041),腰部では0.52±0.07 m/s2から0.50±0.06 m/s2に(P=0.001),有意に低下した。歩行の規則性は,頚部の左右方向加速度(P=0.013),水平面角速度(P=0.014),前額面角速度(P=0.049)で有意に低下した。
【結論】
今回の結果より,TKAによる疼痛,下肢アライメントの改善は歩行時の体幹の側方動揺を減少させることが示された。一方,TKAにより,頚部の加速度と角速度の規則性の低下が認められた。したがって,TKAの歩容は術後4週でも安定しておらず,その後も変化すると予測された。体幹の側方動揺の増加は,歩行のエネルギー効率を低下させ,歩行の耐久性等に影響を与えると考えられる。今後は,運動療法による効果を含め検討を進めていきたい。
近年,変形性膝関節症(Knee osteoarthritis,膝OA)の患者数の増加に伴い,客観的な歩行分析の重要性が指摘されている。膝OA患者では,歩行時に体幹の側方動揺により膝関節に作用する外的な内反モーメントを減少させることが報告されている。人工膝関節全置換術(total knee arthroplasty,TKA)による疼痛や下肢アライメントの改善は,歩行時の体幹動揺も改善すると考えられる。しかし,TKAによる歩行時の体幹動揺の変化を検討した報告は少なく,明らかになっていない。本研究の目的は,小型の加速度計・角速度計を用い,膝OA患者のTKAによる歩行時の体幹動揺の変化を明らかにすることである。
【方法】
対象は膝OAを呈し,片側もしくは両側にTKAを施行した18名(男性6名,女性12名,片側16名,両側2名)であった。平均年齢とBMIはそれぞれ,72±9歳,25.9±2.0 kg/m2であった。Kellgren-Lawrence分類は,StageIII8名,IV10名であり,Femoral Tibia Angleは術前179.2±9.0°,術後171.8±4.0°であった。術前とTKA4週後に3軸の加速度計・角速度計を第7頸椎と第3腰椎,患側の腓骨外果に貼付し,歩行時の体幹動揺を計測した。歩行条件は,快適速度における16m歩行とし,中央の5歩行周期を分析対象とした。得られたデータから,体幹動揺の総和である二乗平均平方根(Root Mean Square,RMS)と各方向のRMSがRMSの総和に占める割合(RMS ratio,RMSR)を算出した。また,歩行の規則性を,自己相関係数を用いて分析した。
【結果】
歩行速度は,TKA前0.96±0.18 m/s,TKA後1.00±0.19 m/sであり,有意差を認めなかった(P=0.282)。RMSの比較では,頚部・腰部ともに,TKA前後で有意な変化を認めなかった。一方,左右方向の加速度のRMSRは,頚部ではTKAにより0.55±0.11 m/s2から0.52±0.12 m/s2に(P=0.041),腰部では0.52±0.07 m/s2から0.50±0.06 m/s2に(P=0.001),有意に低下した。歩行の規則性は,頚部の左右方向加速度(P=0.013),水平面角速度(P=0.014),前額面角速度(P=0.049)で有意に低下した。
【結論】
今回の結果より,TKAによる疼痛,下肢アライメントの改善は歩行時の体幹の側方動揺を減少させることが示された。一方,TKAにより,頚部の加速度と角速度の規則性の低下が認められた。したがって,TKAの歩容は術後4週でも安定しておらず,その後も変化すると予測された。体幹の側方動揺の増加は,歩行のエネルギー効率を低下させ,歩行の耐久性等に影響を与えると考えられる。今後は,運動療法による効果を含め検討を進めていきたい。