第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本運動器理学療法学会 一般演題ポスター
運動器P02

2016年5月27日(金) 11:50 〜 12:50 第11会場 (産業振興センター 2階 セミナールームA)

[P-MT-02-2] 人工股関節全置換術後感染患者の機能的予後

人工関節温存術・二期的再置換術を施行した5症例の検討

中村瑠美1, 山口良太2, 林申也3, 橋本慎吾3,4, 神崎至幸3, 松野凌馬1, 市橋康佑1, 丸山孝樹1, 酒井良忠1,4 (1.神戸大学医学部附属病院, 2.株式会社アールイーコンセプト, 3.神戸大学大学院整形外科学, 4.神戸大学大学院リハビリテーション機能回復学)

キーワード:人工股関節, 感染, 機能的予後

【目的】

人工股関節全置換術後感染(以下PJI)は長期治療を要する深刻な合併症である。PJIの鎮静化には抗菌薬治療と病巣掻爬・再置換等の外科的治療が必要であり,侵襲性の強い治療となる。近年,インプラントや抗菌薬の改良が進み,PJIの予防や診断,治療方法等に関する報告が散見される。一方で,PJI患者に対する理学療法や機能的予後に関して報告されたものは少ない。そこで本研究の目的は,当院にてPJI治療を施行し,自宅退院可能であった症例について検討することとした。


【方法】

対象は2012年4月~2015年10月当院にてPJIに対する治療をうけて自宅退院した10例10股のうち,永続的抜去術を施行された4例4股,PJI発症前より歩行困難であった1例を除外した5例5股(男性1例,女性4例:平均年齢69歳)とした。電子診療録より,PJI治療方法・最終人工股関節全置換術(以下THA)からPJI発症までの期間・基礎疾患・免荷期間・在院日数・発症前および退院時の歩行様式を後方視的に採取し検討した。


【結果】

人工股関節温存術(病巣掻爬+抗菌薬治療)3例,二期的再置換術(人工関節抜去+抗菌薬治療→再置換)2例であった。PJI発症までの期間は,3ヶ月以内の早期感染3例,1年以上の遅延感染2例,基礎疾患は関節リウマチ(以下RA)3例であった。全例において,発症前・退院時の歩行様式に変化なく退院可能であった。以下に6例の要約を示す。

<症例1,2>順に76歳・85歳女性。基礎疾患にRAあり。PJI発症は順に術後4年・1か月半。温存術施行。2例ともに杖歩行で自宅退院。在院日数56日・67日であった。<症例3>33歳男性。特発性大腿骨頭壊死に対しTHA施行。術後1ヶ月でPJI発症し温存術施行。杖歩行で自宅退院。在院日数30日であった。<症例4>74歳女性。基礎疾患にRAあり。THA術後4年半で初回PJI発症,温存術で軽快するも1年半後に再燃,二期的再置換術施行。免荷期間61日。再置換術後3日より全荷重で歩行練習開始。術後21日で杖歩行自立,術後34日で自宅退院。在院日数96日であった。<症例5>77歳女性。基礎疾患なし。変形性股関節症に対し他院でTHA施行。術後13日でPJI発症。温存術で鎮静化せず当院転院,二期的再置換術施行。免荷期間101日。再置換術後3日より全荷重で歩行練習開始。術後35日で杖歩行自立,術後44日で自宅退院。PJI発症からの在院日数167日であった。


【結論】

本研究の結果より,PJIに対する温存術・二期的再置換術施行患者において,PJI治療後歩行様式が維持できる可能性が示唆された。温存術と異なり,長期免荷期間を要する二期的再置換術患者においては,免荷期間中の機能維持が理学療法の課題であると考えられる。今後は,PJIの外科的治療や免荷による下肢機能への影響を明らかにし,PJI患者に対するより効果的な理学療法の検討が望ましい。本研究結果は,今後増加すると予測されるPJI患者に対する理学療法への一助となると考えられる。