第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本運動器理学療法学会 一般演題ポスター
運動器P04

Fri. May 27, 2016 3:20 PM - 4:20 PM 第10会場 (産業振興センター 2階 セミナールームB)

[P-MT-04-1] ダイレクトストレッチングの実施時間の違いが骨格筋の伸張性に及ぼす影響について

内川智貴1, 坂野裕洋1,2,3, 柳瀬準3 (1.医療法人利靖会前原外科整形外科リハビリテーションクリニック医療リハビリテーション科, 2.日本福祉大学健康科学部, 3.医療法人利靖会前原外科・整形外科・小児科医療リハビリテーション科)

Keywords:ダイレクトストレッチング, 介入時間, 介入効果

【はじめに,目的】

骨格筋の伸張性低下は,関節可動域に制限を引き起こし運動機能に悪影響を及ぼす。そのため,関節運動を介して骨格筋を伸張するストレッチングは,理学療法において多用される治療方法のひとつである。しかしながら,理学療法の対象患者の中には,痛みなどによって関節運動を行えない場合もあり,関節運動を伴わないダイレクトストレッチングがしばしば用いられる。ダイレクトストレッチングは,圧痛や運動時痛が生じる部位に隣接する腱または筋間に指を押し入れ,筋膜を含めた軟部組織を標的にすることで,直接的に骨格筋を伸張すると考えられている。しかしながら,適切な実施時間や強度,骨格筋の伸張性に与える影響などについては不明瞭な点が多く,それらを検討した報告も少ない。そこで本研究では,ダイレクトストレッチングに関する基礎研究として,健常者を対象にダイレクトストレッチングの実施時間の違いが骨格筋の伸張性に与える影響について検討した。

【方法】

本研究は単盲検交互比較試験で行い,対象は手関節に神経障害の既往がない健常大学生6名とした。介入部位は橈側手根屈筋の筋腹とし,痛みを感じる直前までダイレクトストレッチングを行った。介入時間の条件は,15秒,30秒,60秒,300秒とし,被験者は24時間以上の間隔を空けて4条件すべてを行った。評価は介入の直前と直後,5分後の計3回,手関節の背屈角度(ROM),筋腱複合体の粘弾性(stiffness),痛みに対する耐性(stretch tolerance)を計測した。統計学的解析は群内比較でFriedman検定を用い,事後検定にWilcoxonの符号付順位検定を行った。群間比較にはKruskal-Wallis検定を用い,事後検定にMann-Whitney検定を行った。有意水準は5%未満とした。

【結果】

ROMは,30秒条件のみで介入直前と比較して介入直後と5分後に有意な増大を認めた。stiffnessは,15,60,300秒条件で介入効果を認め,15秒条件では介入5分後,60,300秒条件で介入直後と5分後に有意な低下を認めた。stretch toleranceは,15秒条件のみで介入直前と比較して介入直後と5分後に有意な増加を認めた。なお,条件間の比較では,すべての評価時期で有意差を認めなかった。

【結論】

本研究結果より,ダイレクトストレッチングでは,15秒や30秒といった短時間の介入によって,ROMやstiffness,stretch toleranceといった骨格筋の伸張性に関連する指標が変化することが明らかとなった。このことから,ダイレクトストレッチングでは,関節運動を介して骨格筋を伸張する一般的なストレッチングとは異なる作用機序によって,筋腱複合体の粘弾性や関節可動域を変化させている可能性が推察される。また,本研究では健常な骨格筋を対象としたが,実際の臨床場面では,疼痛や筋スパズム,癒着などを呈している場合が殆どであり,そのような病態に対して圧刺激が及ぼす影響についても今後検討が必要である。