[P-MT-07-5] 大腿骨転子部骨折患者における小転子骨片の転位の有無が退院時歩行能力に与える影響
Keywords:大腿骨転子部骨折, 小転子の転位, 歩行自立度
【はじめに,目的】
大腿骨転子部骨折を受傷した患者の術後理学療法において,小転子骨片が転位している症例を経験する。先行研究では小転子骨癒合不良例において,日常生活動作上は支障を来たしていないとされているが,小転子骨片の転位が歩行能力の再獲得を阻害していると感じることが少なくない。今回,大腿骨転子部骨折患者において,小転子骨片の転位の有無が退院時歩行能力に影響を与えるか明らかにすることを目的とした。
【方法】
2012年4月から2015年7月までに当院に入院し,大腿骨転子部骨折を受傷後,骨接合術を施行した患者の中から,1.65歳以上,2.受傷前の屋外歩行が自立,3.悪性腫瘍等による病的骨折でない,4.交通外傷や高所からの転落による骨折でない,5.受傷前の主な移動手段が歩行,6.受傷前の生活拠点が施設でない,7.併存症に認知症,脳卒中後遺症がない,8.転帰が死亡および合併症の増悪による転院でない,9.診療録の記録に不備がない,以上の条件を満たす60例(男性5例,女性55例,84.5±6.3歳)を対象とした。
診療録から,年齢,性別,同居家族の有無,手術から退院までの日数,小転子骨片の転位の有無(股関節の単純X線写真正面像にて骨の連続性を確認),受傷前・退院時歩行能力(補助具使用の有無及び介助者の有無にて採点するMobility scoreを使用),退院先,併存症の数について情報収集した。
統計的検討として,対象を小転子骨片の転位の有無であり群となし群に分け,年齢,退院時歩行能力を対応のないt検定,手術から退院までの日数,受傷前歩行能力をMann-WhitneyのU検定にて比較した。さらに,退院時歩行能力を目的変数,年齢,小転子骨片の転位の有無,受傷前歩行能力,併存症の数を説明変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。統計解析には,SPSS ver 22.0を使用し,いずれの検定も有意水準は5%とした。
【結果】
あり群は23例,なし群は37例であった。退院時歩行能力(あり群3.3±2.3点,なし群4.6±2.2点:p=0.03)に有意差を認めた。年齢(あり群84.3±7.2歳,なし群84.6±5.9歳),受傷前歩行能力(あり群5.5±2.3点,なし群6.6±2.4点),手術から退院までの日数(あり群93.9±26.1日,なし群80.4±25.9日)には有意差を認めなかった。
退院時歩行能力を目的変数とする重回帰分析では説明変数として受傷前歩行能力(β=0.666),併存症の数(β=-0.217)が選択され,重相関係数R=0.701,決定係数R2=0.491であった。
【結論】
大腿骨転子部骨折患者で小転子骨片の転位のある者は,ない者に比べ,退院時歩行能力が低下することが明らかになった。小転子骨片の転位により,小転子に付着する腸骨筋,大腰筋の機能低下及び疼痛の増強を招き,歩行能力の低下を生じた可能性が考えられる。小転子骨片の転位の有無,併存症の数が,大腿骨転子部骨折患者の術後理学療法を進める上で,歩行能力の予後予測に有益な情報となる可能性が示唆された。
大腿骨転子部骨折を受傷した患者の術後理学療法において,小転子骨片が転位している症例を経験する。先行研究では小転子骨癒合不良例において,日常生活動作上は支障を来たしていないとされているが,小転子骨片の転位が歩行能力の再獲得を阻害していると感じることが少なくない。今回,大腿骨転子部骨折患者において,小転子骨片の転位の有無が退院時歩行能力に影響を与えるか明らかにすることを目的とした。
【方法】
2012年4月から2015年7月までに当院に入院し,大腿骨転子部骨折を受傷後,骨接合術を施行した患者の中から,1.65歳以上,2.受傷前の屋外歩行が自立,3.悪性腫瘍等による病的骨折でない,4.交通外傷や高所からの転落による骨折でない,5.受傷前の主な移動手段が歩行,6.受傷前の生活拠点が施設でない,7.併存症に認知症,脳卒中後遺症がない,8.転帰が死亡および合併症の増悪による転院でない,9.診療録の記録に不備がない,以上の条件を満たす60例(男性5例,女性55例,84.5±6.3歳)を対象とした。
診療録から,年齢,性別,同居家族の有無,手術から退院までの日数,小転子骨片の転位の有無(股関節の単純X線写真正面像にて骨の連続性を確認),受傷前・退院時歩行能力(補助具使用の有無及び介助者の有無にて採点するMobility scoreを使用),退院先,併存症の数について情報収集した。
統計的検討として,対象を小転子骨片の転位の有無であり群となし群に分け,年齢,退院時歩行能力を対応のないt検定,手術から退院までの日数,受傷前歩行能力をMann-WhitneyのU検定にて比較した。さらに,退院時歩行能力を目的変数,年齢,小転子骨片の転位の有無,受傷前歩行能力,併存症の数を説明変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。統計解析には,SPSS ver 22.0を使用し,いずれの検定も有意水準は5%とした。
【結果】
あり群は23例,なし群は37例であった。退院時歩行能力(あり群3.3±2.3点,なし群4.6±2.2点:p=0.03)に有意差を認めた。年齢(あり群84.3±7.2歳,なし群84.6±5.9歳),受傷前歩行能力(あり群5.5±2.3点,なし群6.6±2.4点),手術から退院までの日数(あり群93.9±26.1日,なし群80.4±25.9日)には有意差を認めなかった。
退院時歩行能力を目的変数とする重回帰分析では説明変数として受傷前歩行能力(β=0.666),併存症の数(β=-0.217)が選択され,重相関係数R=0.701,決定係数R2=0.491であった。
【結論】
大腿骨転子部骨折患者で小転子骨片の転位のある者は,ない者に比べ,退院時歩行能力が低下することが明らかになった。小転子骨片の転位により,小転子に付着する腸骨筋,大腰筋の機能低下及び疼痛の増強を招き,歩行能力の低下を生じた可能性が考えられる。小転子骨片の転位の有無,併存症の数が,大腿骨転子部骨折患者の術後理学療法を進める上で,歩行能力の予後予測に有益な情報となる可能性が示唆された。