第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本運動器理学療法学会 一般演題ポスター
運動器P07

Fri. May 27, 2016 3:20 PM - 4:20 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-MT-07-6] 大腿骨頸部骨折後の歩行自立に必要な栄養状態の具体的な基準についての検討

岡本伸弘1, 増見伸1, 水谷雅年2, 齊藤圭介2, 原田和宏2, 森下元賀2, 仲村匡平1 (1.福岡和白リハビリテーション学院理学療法学科, 2.吉備国際大学大学院保健科学研究科)

Keywords:大腿骨頸部骨折, 歩行能力, 栄養状態

【はじめに】

大腿骨頸部骨折後に再び歩行が自立するためには,受傷前歩行能力,受傷時の年齢および認知症の有無など,受傷後に変化がない不変的要因と,筋力や栄養状態など受傷後にも変化がある可変的要因の二つに分けることができる。可変的要因の一つである栄養状態は,生理学的な側面からも身体機能を向上させるための重要な要因であることが明らかにされている。

臨床現場では,患者の栄養状態を客観的に把握するために,臨床検査値の一つである血清アルブミン値(以下,Alb値)を用いることが多い。しかし,歩行自立に向けたリハビリテーションを行うにあたって,どの時期にどの程度の栄養状態が必要であるか具体的な基準については,十分に検証されていないことが現状である。

したがって,本研究では大腿骨頸部骨折後の歩行自立に必要となる栄養状態の基準について,検討することが目的である。

【方法】

調査対象は,福岡県内一カ所の回復期リハビリテーション病院に2010年1月から2013年3月の間に入院した65歳以上の全ての大腿骨頸部骨折患者316名とした。骨折の既往歴がある者や急な転院などによりデータに欠損があった者を除いた最終的な集計対象者は266名であった。

歩行自立に必要な栄養状態の基準を検討するために,受傷から当院で臨床検査を測定した日までの経過日数を調査した。次に,歩行自立の予測に栄養状態は有用であるかを検討するために,歩行自立の有無を独立変数,説明変数をAlb値としたROC分析を行い,Area under curve(以下,AUC)によって予測精度を算出した。また,歩行自立に必要なAlb値のカットオフ値については,Youden's indexを用いて算出した。

【結果】

集計対象者の平均年齢は85.2歳であった。受傷から当院で臨床検査を実施した日までの経過日数は平均22.4日であった。歩行自立に対するAlb値のAUCは71%であった。カットオフ値はAlb値3.5g/dl(感度59%,特異度73%)であった。

【結論】

本研究結果より,歩行自立に必要な栄養状態の具体的な数値については,受傷から22.4日が経過した時点におけるAlb値を3.5g/dlと設定した。またAlb値を用いた歩行自立の予測は,AUCが71%であり中等度の予測精度があることが示された。

カットオフ値については,感度がやや低いものの特異度は73%であり,Alb値3.4g/dl以下の場合は歩行の自立が難しくなることを示唆するものであった。先行研究においてもAlb値3.4g/dl以下の場合は,歩行の自立が遅延することが報告されているため,本研究で設定したカットオフ値は妥当ではないかと考える。

統計解析について,本研究は栄養状態の基準を示す方法の一つとしてROC分析を選択した。しかし,正確に歩行自立を予測するためには,多変量解析によって挙げられている関連要因を考慮する必要があると考える。