第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本運動器理学療法学会 一般演題ポスター
運動器P11

Fri. May 27, 2016 4:30 PM - 5:30 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-MT-11-2] 挙上可能な腱板断裂例と健常者の肩関節挙上時の肩甲上腕関節の動きの比較

山浦誠也1, 溝田丈士2, 壇順司3, 森山佳代1, 岩坂知治2 (1.特定医療法人整肢会副島整形外科クリニック, 2.特定医療法人整肢会副島整形外科病院, 3.帝京大学福岡医療技術学部理学療法学科)

Keywords:SHA, 肩甲上腕関節角, 腱板機能

【はじめに,目的】腱板断裂が存在するにも関わらず挙上運動が可能な症例を経験することが多くある。本研究では,挙上可能な腱板断裂者と健常者の肩関節挙上時の肩甲上腕関節(Gleno Humeral joint:以下,GH)の動きを比較し,肩関節挙上時に腱板機能の低下を補う要素について明確にすることを目的に行った。

【方法】対象は,本研究の趣旨を説明し同意を得た健常男性20名20右肩,年齢28.1±3.7歳(以下,健常群)と自由挙上120°以上可能な腱板断裂症例30名30肩(右肩23例 左肩7例),年齢65.1±11.0歳(以下,断裂群)とした。計測は端座位にて,下垂位・自由挙上30°・60°・90°・120°位での肩甲棘と上腕骨のなす角(以下,SHA)を測定した。得られたデータを1)30°SHA-下垂SHA 2)60°SHA-30°SHA 3)90°SHA-60°SHA 4)120°SHA-90°SHAの手順で下垂位から30°毎のGH角(以下,GHA)を算出した。両群間における下垂位のSHAと1)から4)のGHAの比較をMann-WhitneyのU検定(有意水準は5%未満)を用いて行った。

【結果】健常群と断裂群の最大挙上角は各々165.2±6.2°と140.2±9.4°であった。下垂位SHAは91.3±3.0°と96.2±5.1°で有意に断裂群が大きかった(P<0.01)。GHAは1)30.9±4.1°と16.3±4.4°で健常群が有意に大きく(P<0.01),2)23.3±5.2°と21.5±4.5°で有意差はなかった。3)24.9±4.2°と17.0±5.8°で健常群が有意に大きかった(P<0.01)。4)8.5±5.5°と10.8±4.2°で断裂群が有意に大きかった(P<0.05)。

【結論】断裂群では,まず下垂位でのGHは,肩甲骨が下方回旋し外転位にあることで,腱板の挙上初期の上腕骨頭を頭方から尾方に押し付ける機能と大結節を肩峰下へ引き込む機能を代償している。そのため30°までの挙上では先行して肩甲骨が上方回旋し挙上角度を確保しているので,GHの可動性はあまり必要ないことになる。次に60°までの挙上では,初期挙上時の慣性の動きで上腕骨を挙上するので,この区間は腱板機能を必要とせずGHを可動させていると考えられる。90°までの挙上では,上肢の重さによるモーメントが増加し腱板の機能が必要となるが,肩甲骨を上方回旋し関節窩の傾斜を強め関節の安定化を図り,可動域を補うことで挙上角度を確保しているため,GHの可動性は少なくてよいことになる。そして,120°までの挙上では,ここまで肩甲骨の上方回旋を先行して使用したために,残りの可動域は残存筋の作用によりGHを使い挙上角度を確保したものと推察される。つまり,断裂群は腱板機能を補うために肩甲骨が先行して動き,それを追随するように上腕骨が可動する動きを呈していることがわかった。肩甲骨の良好な可動性と各区間における使い方を習得している者が,腱板機能を使用しなくても挙上が可能であることから,腱板機能の低下に対するアプローチには,各区間における肩甲骨の効率的な可動性も重要であることが示唆された。