第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本運動器理学療法学会 一般演題ポスター
運動器P21

Sat. May 28, 2016 11:40 AM - 12:40 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-MT-21-2] 人工膝関節置換術後患者における筋力強化は大腿四頭筋の量的・質的改善をもたらすか?

―無作為化比較対象試験によるホームエクササイズ効果の検証―

谷口匡史1,2, 福元喜啓3, 澤野翔一朗1, 久郷真人1, 前川昭次1, 川崎拓1, 市橋則明2 (1.滋賀医科大学医学部附属病院, 2.京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻, 3.神戸学院大学総合リハビリテーション学部)

Keywords:人工膝関節置換術, ホームエクササイズ, 無作為化比較対照試験

【はじめに,目的】人工膝関節置換術(TKA)後患者の膝伸展筋力強化により大腿四頭筋の筋肥大が得られることは多く報告されているが,筋内脂肪や結合組織の減少といった筋の質的改善が得られるかどうかは明らかでない。本研究の目的は,TKA患者のホームエクササイズによる筋力強化が,身体機能および大腿四頭筋における量的・質的改善をもたらすかを検討することである。



【方法】対象は,内側型変形性膝関節症を原因疾患としてTKAを施行した58名とし,ホームエクササイズを行う介入群(n=28;平均年齢72.1±6.9歳)と対照群(n=30;平均年齢72.5±6.3歳)に無作為に割り付けた。介入群は,エラスティックバンドを利用した膝伸展筋力強化とし,1セット30回として3セット/日を週5回の頻度で退院時から20週間実施した。なお,膝屈曲可動域練習は両群ともに実施した。身体機能の評価として,膝伸展筋力,Timed Up & Go(TUG),Knee Society Score(KSS)を測定した。また,大腿四頭筋(大腿直筋:RF,中間広筋:VI,外側広筋:VL,内側広筋:VM)における超音波横断画像撮像から,筋の量的指標として筋厚,質的指標として筋輝度を計測した。筋輝度は,グレースケールを用いて算出され,高値を示すほど筋内脂肪や結合組織の増加といった筋の質的低下が大きいことを意味する。身体機能および筋厚・筋輝度の測定は,術前,退院(介入開始)時,介入後8週および20週後の4時点で実施した。身体属性および入院期間,術前・介入開始時における各測定項目の比較には対応のないt検定を用いた。介入効果の比較には,介入開始時を共変量とした分割プロットデザインによる二元配置分散分析を用い,事後検定としてBonferroni検定を行った。



【結果】入院期間および術前・介入開始時の各測定項目には,両群間に有意差を認めなかった。共分散分析の結果,膝伸展筋力および大腿四頭筋の筋厚・筋輝度のすべてで交互作用を認めたが,TUG・KSSには交互作用を認めなかった。事後検定の結果,介入群におけるRF・VI・VL筋厚は対照群と比較し,介入後8週および20週目で有意に高値を示したが,VMでは,介入後20週目のみ両群間に有意差を認めた。一方,介入群における4筋すべての筋輝度は,対照群と比較して介入後20週のみ有意に低値を示した。



【結論】TKA術後のホームエクササイズによる筋力強化は,膝伸展筋力の向上および筋厚増大,筋輝度減少に有用であった。筋力強化による筋厚の改善は,大腿四頭筋の中でも筋間差が生じており,VMで特異的に遅延していることが明らかとなった。また,筋力強化による筋厚の改善は筋輝度に比べて早期に生じており,筋の量的・質的改善には時間差が生じていることが示唆された。一方,TUGやKSSの改善には群間差を認めなかったことから,筋力強化のみではTKA後の運動機能の改善を促進できないことが示唆された。