第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本運動器理学療法学会 一般演題ポスター
運動器P25

Sat. May 28, 2016 2:50 PM - 3:50 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-MT-25-2] 大腿骨近位部骨折術後痛の慢性化に影響する因子の検討

高橋幸司, 座間拓弥, 田口涼太, 蜂須祐二郎, 太樂優一, 入内島沙弥, 永安滋暁, 佐々木和人, 鈴木英二 (さいたま記念病院リハビリテーションセンター)

Keywords:大腿骨近位部骨折, 慢性疼痛, 痛みへの破局的思考

【はじめに,目的】高齢者の6割以上に何らかの痛みを有していると報告されている。高齢者の痛みは運動機能の低下や身体活動量の低下,また,うつ症状などの心理面の低下と強く関連し,日常生活活動の低下を引き起こす恐れが高く,社会的な問題となっている。一方,超高齢化の進行により,大腿骨近位部骨折受傷者は2020年には20万人,2030年には30万人になると予想されている。大腿骨近位部骨折術後疼痛は30-40%が慢性化するとの報告があり,さらに疼痛が慢性化した者の活動量の低下も報告されている。近年,慢性痛と認知・精神機能の関連が多数報告され,平川らは人工膝関節置換術後の疼痛と認知・精神機能面の関与を報告している。そこで本研究は,大腿骨近位部骨折術後痛の慢性化に影響する因子を認知・精神機能面を含めて術後の経過から分析し,術後痛の慢性化に関連する因子を明らかにすることを目的とした。


【方法】対象は,当院で手術施行し,術後8週間以上入院した大腿骨近位部骨折患者20名(男性3名,女性17名,年齢79.5±7.85歳),選定基準は受傷前歩行能力が独歩もしくは杖歩行自立,MMSE21点以上であり,術後介入に支障をきたす重大な合併症がない者とした。評価項目は,疼痛(NRS),筋力(酒井医療社製 徒手筋力計 モービィMT-100Pを使用 股関節外転,膝関節伸展),股関節可動域(屈曲,伸展),ADL(FIM),精神面は痛みへの破局的思考をPain catastrophizing scale(PCS),不安感・うつ症状をHospital Anxiety and Depression Scale(HADS),認知面はNeglect like symptoms scale(NLS-s)とし,評価時期は術後1週,4週,8週に評価した。統計処理は統計ソフトR3.2.0を使用し,術後8週時の疼痛の強さと各時期での評価結果との相関関係をSpearmanの順位相関係数で算出した。


【結果】術後8週時のNRSとの相関結果は,PCS(術後8週 r=0.81 P<0.01),PCS下位項目の反芻(術後1週 r=0.52 P<0.05,術後4週 r=0.56 P<0.05,術後8週 r=0.84 P<0.01),PCS下位項目の拡大視(術後8週 r=0.46 P<0.05),NRS(術後1週 r=0.52 P<0.05,術後4週 r=0.72 P<0.01),HADS(術後8週 r=0.53 P<0.05),HADSの下位項目のうつ(術後8週 r=0.63 P<0.01),motorFIM(術後4週 r=-0.45 P<0.05),に有意な相関関係を認めた。筋力,関節可動域,NLS-sに有意な相関関係を認めなかった。


【結論】大腿骨近位部骨折患者の術後痛の慢性化には,身体機能面の関連がみられず,痛みへの破局的思考が関連している可能性が示唆され,特に下位項目の反芻は術後早期からの関連が示唆された。また,術後早期からの疼痛の強さも術後痛の慢性化に関連している可能性が示唆された。さらに,術後8週で疼痛が強いほどうつ傾向が強くなる可能性も示唆された。つまり,大腿骨近位部骨折術後早期からの疼痛管理と破局的思考へのアプローチは疼痛の慢性化およびうつ傾向の予防に重要な可能性があると考えられる。