第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本運動器理学療法学会 一般演題ポスター
運動器P25

2016年5月28日(土) 14:50 〜 15:50 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-MT-25-4] 大腿骨転子部骨折後,回復が遅延した一症例の病態の分析と治療経過

大島埴生 (岡山リハビリテーション病院リハビリテーション部)

キーワード:大腿骨転子部骨折, 疼痛, 破局的思考

【はじめに】

大腿骨転子部骨折患者の地域連携パスのプロトコールでは,概ね2週間程度でT字杖歩行に移行し,その後,退院もしくは回復期リハビリテーション(以下,回リハ)病棟などの連携病院に転院するという流れが提示されている。しかし,このようなプロトコールから逸脱する症例もあり,その場合のバリアンスの検討がなされている。藤村ら(2009)は具体的な負のバリアンスとして,歩行能力の獲得の遅延や疼痛を挙げている。今回,術後12日で回リハ病棟に転院したが,その時点では患側股関節自動運動が不能で,平行棒内歩行が困難な一症例を経験したため,病態の分析及び介入経過を報告する。


【方法】

症例は80代前半の女性。転倒し,大腿骨転子部骨折受傷。急性期病院にてγ-nail術を施行され,術後に立位・歩行練習を行った。CT画像では小転子の剥離を認めるも,それ以外の部分は骨癒合良好であった。既往歴に神経学的・整形外科的疾患はなかった。改訂長谷川式簡易知能評価スケールは27点であった。受傷前は一人暮らしでADL,APDLとも全て自立していた。転院時ADLは車いすにて介助を要していた。運動機能に関して,関節可動域は股関節屈曲100°,外転15°であり,防御性収縮が出現した。患側股関節自動運動が不能であり,端坐位での下肢挙上時の床-踵間の距離(Floor Heel Distance:FHD)は0cmであった。また安静時のNRSは5であった。転院後4日目でのBerg Balance Scale(以下,BBS)は15であり,平行棒内歩行は困難であった。心理的評価はPain Catastrophizing Scale(以下,PCS)が総計36(反芻:19,拡大視:9,無力感:8)であった。理学療法介入は運動感覚に注意を向け,関節可動域練習を行った。またpain scienceに基づき説明をし,患者教育を行った。ある程度,運動機能が改善した後,段階的にADLの自立度を高め,自己効力の改善に努めた。


【結果】

痛みは段階的に減弱し,最終的にNRS・PCSともに0となり,消失した。股関節の自動運動にも改善が見られ,FHDは転院3日目には2cm,4日目には10cm,5日目には15.5cmへと飛躍的な向上を認めた。BBSは最終的に54に改善し,屋内外とも独歩自立し,術後77日で自宅退院となった。


【結論】

近年,疼痛の心理的側面を含めた痛みの慢性化モデル(fear avoidance model)が提唱されている。痛みに対する破局的思考(特に反芻)の傾向が強いほど痛みや能力障害を呈することが指摘されている(Louw,2011)。本症例はPCSの結果より,破局的思考が顕著に認められ,回復の遅延に心理的側面が影響していると考えられる。このような痛みに対し,ビデオ教材を用いた教育学的アプローチの有用性(平川,2015)や疼痛自体から注意を逸らす他動運動(村部,2015)が報告されており,それらが効果を示したと考えられる。本症例のような回復が遅延し,負のバリアンスが発生した例では,心理的側面を含めた痛みの評価・介入が必要となることが推察される。