第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本運動器理学療法学会 一般演題ポスター
運動器P27

Sat. May 28, 2016 4:00 PM - 5:00 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-MT-27-5] 人工股関節全置換術後2週で新たな身体構造に適応可能

~骨盤傾斜およびバランス能力による検討~

手島礼子, 吉村ゆかり, 小谷尚也, 塩田悦仁, 鎌田聡, 松田拓朗 (福岡大学病院リハビリテーション部)

Keywords:人工股関節全置換術, 臍果長, 単位面積軌跡長

【はじめに,目的】

人工股関節全置換術(以下THA)患者を対象に術前・術後1週・2週での骨盤傾斜や股関節外転筋力,バランス能力を比較検討し,若干の知見を得たので報告する。

【方法】

対象は2013.8~2014.9に当院でTHAを施行した28股(男性7股,女性21股,平均年齢61.4±10歳)で,理学療法は術後平均2日から介入した。検査項目は臍果長差,股関節外転筋力,総軌跡長(LNG,cm,以下L),外周面積(EA,cm2,以下E)であり,LをEで除した単位面積軌跡長(LNG/EA,cm以下L/E)を算出し,術前・術後1週・術後2週で比較した。臍果長差は仰臥位で臍から左右の内果までの長さをメジャーで測定し,非術側から術側を引いた長さを骨盤傾斜の指標とした。股関節外転の筋力(N)はHand-HeldDynamometer(日本Mdeix社製,以下HHD)を使用。測定の肢位は,仰臥位で股関節外転・回旋・屈伸0°で,力を受けるHHDセンサー部の位置は大腿遠位部外側とし,ずれないようにセンサー部をベルト固定した。測定は最大等尺性筋力を2回測定し,その最大値を体重で除した筋力体重比(N/Kg)を使用した。L,Eは重心動揺計(Active Balancer:酒井医療社製)を使用し,開眼静止立位で30秒測定した。術前・術後1週・術後2週における経過比較はWilcoxonの符号付順位和検定を用いて解析し有意水準は5%未満とした。


【結果】

結果は,術前/術後1週/術後2週の順に記載。臍果長差は(0.3±0.4/-0.8±0.6/-0.3±0.4cm;P<0.01)となり各群間に有意差がみられた,股関節外転筋力体重比は(術側:1.5±0.5/1.4±0.8/2.0±0.9,非術側:2.0±0.6/2.2±0.6/2.5±0.8 N/kg;P<0.05)で術前・術後2週に術側・非術側ともに有意差がみられた。L/Eは(32.1±10.8/29.5±10.7/37.0±12.2cm;P<0.05)となり術後1週・術後2週に有意差がみられた。


【結論】

今回の研究結果から,近年の筋切離のない低侵襲な術式により術後2週という早期で新たな環境に適合できることが示唆された。L/Eは微細な深部感覚系姿勢制御機能によると考えられている。術後1週では手術による侵襲に加え,術前から生じていた骨盤傾斜による見かけの脚長差や手術での脚長差補正による自覚的脚長差などからアンバランスが生じ微細な姿勢制御能など身体機能がもっとも低下した状態である。本研究では術後2週間という短期間で,股関節外転筋力体重比は両側ともに術前より改善していた。有意差はなかったがL/Eも術前より改善傾向にあった。また変形性股関節症では,脚長差を補う姿勢をとっていることから術側に骨盤が下がり臍果長差が生じている症例も多いが,術後2週で臍果長も改善に近づいていた。THA術後に関する先行研究では機能回復に4週~3ヶ月程度の時間を要したとされるものもあるが,術後2週という早期で新たな身体構造に適応した動作能力獲得の可能性が示唆された。

今後は骨盤傾斜を意識した介入によって術後経過に違いをもたらすか比較検討し,より適切で有効な理学療法を進めていきたい。