第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本運動器理学療法学会 一般演題ポスター
運動器P30

Sun. May 29, 2016 11:10 AM - 12:10 PM 第10会場 (産業振興センター 2階 セミナールームB)

[P-MT-30-5] 握り部分の角度を個々人に合わせて調整可能な接合部を組み入れた杖の研究

山中梨央, 高橋龍介 (日本大学医学部附属板橋病院)

Keywords:三軸加速度計, 杖, 歩行

【目的】

歩行補助具である杖は,利便性が高いため使用頻度が高い。しかし加齢や疾患に伴う機能障がい,形態変化は個人差が大きいにもかかわらず,現在一般的に提供されているT字型杖(以下従来杖)は高さ調整のみであり,把持部の角度は調節することが出来ない。そのため,手や腕に疼痛や可動域制限がある者にとって使用しづらいものである。症状や機能にあった装具を用いることの重要性は知られているが,その具体的は方法を示すまでは至っていない。また,杖を使用した先行研究の多くは高さや種類の違いを比較するものであって,患者の上肢の関節に合わせて調節した報告は少ない。そこで本研究では,握り部分の角度を個々人に合わせて調整可能な接合部を組み入れた杖(以下改良杖)を開発し,従来杖と比較し検討することとした。


【方法】

対象は,上肢の関節に疼痛や変形を有する患者10症例とした。杖は,普段使用している方の上肢で把持した。測定は,3軸加速度計による歩行周期変動(以下CV値)や立脚初期に生じる左右方向への体幹加速度ピーク値(以下ピーク値),歩行速度にて歩行パラメーターを従来型の杖と比較した。3軸加速度計を対象者のヤコビー線上腰背部中央に専用ベルトにて固定し,測定を2回行った。対象者は,助走路と減速路2mずつ設けた14mの直進路を快適速度で歩行し,中間の10mの所要時間を計測した。歩行中の加速度データは,加速期と減速期の影響を考慮して,歩き始めの2歩と終わりの2歩を除いた。測定したCV値,ピーク値,歩行速度は対応のあるt検定にて有意差を求めた。


【結果】

CV値は,改良杖が6.08±3.43%,従来杖が8.08±4.43%であり,改良杖が有意に低値(p<0.01)を示した。ピーク値は,杖使用側では改良杖が0.257G,従来杖が0.265Gで改良杖が減少傾向にあり,対側では改良杖が0.308G,従来杖が0.285Gで従来杖が減少傾向であったが,いずれも有意差は認められなかった。歩行速度は改良杖が48.5±13.2m/分,従来杖が47.7±14.6m/分であり,従来杖の方が速かったが有意差は認められなかった。


【結論】

先行研究により,ピーク値はIC後の側方動揺性を表す指標として用いられている。今回,ピーク値では有意差がなかったたが,CV値は改良杖が有意に低値を示した。改良杖を使うことで歩行リズムが改善し,歩行の安定性が向上したが,側方動揺性は歩行安定性における影響は少ないと推察された。患者個人の手関節角度に合わせた杖はさらなる歩行能力の向上や安定性向上による転倒予防,歩行時で上肢への負担軽減も図れる可能性がある。そのため長距離・長時間での歩行においても検討する必要がある。また,パワースペクトラム解析での円滑性やRoot Mean Squareでの動揺性や自己相関分析での規則性など歩行安定性に関わる他の要因を検討する必要があると考える。