第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本運動器理学療法学会 一般演題ポスター
運動器P32

2016年5月29日(日) 10:00 〜 11:00 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-MT-32-3] 鏡視下腱板修復術の術後成績に関与する因子を抽出するシステム

川井誉清1, 岡田匡史1, 亀山顕太郎1, 荻野修平2, 村田亮2, 石毛徳之2 (1.松戸整形外科病院リハビリテーションセンター, 2.松戸整形外科病院MD)

キーワード:腱板断裂, 予後予測, シミュレーション

【はじめに,目的】

肩腱板断裂患者のニーズは多様であり,それに関与する因子も複雑である。その術後成績は一般的には良好である。患者の満足度を向上させるためにはより早期の改善が望まれる。そのため,術後3ヶ月時点において関連因子を抽出し,改善できれば,術後成績の向上に寄与できると考えられる。そこで本研究の目的は,患者のニーズに対し術後3ヶ月における腱板修復術後6ヶ月の治療成績に関連性の高い評価因子を個別に抽出するシミュレーションシステムを開発することである。

【方法】

対象は当院で鏡視下骨孔腱板修復術を受け,術後に6ヶ月以上の経過を観察した91名とした。術前にShoulder36を問診にて調査し,その他にJOA score・肩関節可動域を理学検査にて調査した。また,棘上筋厚・断裂サイズ・Goutallier分類による脂肪変性をMRI画像にて評価した。術後3ヶ月・術後6ヶ月においても同様にデータを収集し,得られた情報すべてをデータベース化した(因子数は211個)。統計解析にはRStudio™を用いた。データベースの全因子において相関分析を行い,約4万個の相関係数を算出した。相関行列・主成分分析を行うことでデータベースの主成分を抽出し,その主成分と各因子間の相関関係を調査した。さらに最適化手法を組み合わせることで,様々な条件下で術後成績が最大となるパターンをコンピュータ上で探索できるアルゴリズムを構築した。本システムでは,患者が望むADLを事前に設定することで,そのADLと関連性の高い因子を個別に抽出でき,その時の術後ADLを予測するシミュレーションを行える。

【結果】

本研究では,術後6ヶ月において「頭上の棚に皿を置く」のShoulder36のスコアを最大にするというニーズ設定を行った。このニーズに関与する術後3ヶ月の因子は,寄与率の高い順に「反対側の脇の下を洗う」,「結髪動作」,「ジャケットの袖に患側の腕を通す」であった。これらの因子を用いてシミュレーションを行ったところ,術後3か月時に「反対側の脇の下を洗う」においてはスコアを術前より0.2点(6%)向上させ,「結髪動作」においてはスコアを術前より0.1点(12%)向上させ,「ジャケットの袖に患側の腕を通すこと」についてはスコアを術前より0.7点(24%)向上させることで,術後6ヶ月時に「頭上の棚に皿をおく」というスコアを術前より1.4点(54%)向上させられることが示唆された。このことは,術後3か月の時点で上記の因子を高めることで,術後6ケ月時点のADLに対して大きな効果を期待できることを意味する。

【結論】

患者の望むADLを事前に設定でき,そのADLと関連性の高い因子を個別に抽出できるシステムを開発した。術後6ヶ月の「頭上の棚に皿を置く」というADLを改善させるために,術後3か月の時点で必要な状態を明らかにした。