[P-MT-33-2] 術後3週までの歩行非自立は大腿骨近位部骨折患者における術後1年のADL低下の危険因子である
Keywords:大腿骨近位部骨折, 歩行能力, 術後1年ADL
【はじめに,目的】
大腿骨近位部骨折患者は,歩行能力の回復に時間を要し,1年後も2割が寝たきりになることもあると報告されている(Tsuboi, et al., 2007)。理学療法士には,大腿骨近位部骨折術後の日常生活活動(ADL)を速やかに回復させ,1年後にADLを低下させないことが求められる。しかしながら,術後1年以内のADL低下に影響を及ぼす危険因子(入院中の身体機能や歩行能力)のカットオフ値は,我々が知る限り報告されていない。本研究の目的は,大腿骨近位部骨折患者の術後1年のADLに影響を及ぼすと考えられる入院中の身体機能および歩行能力を調べ,ADL低下を予測するためのカットオフ値を算出することであった。
【方法】
本研究のデザインは,多施設共同前向きコホート研究であった。共同研究施設は,済生会呉病院および済生会広島病院とした。組み入れ基準は,大腿骨近位部骨折患者である,手術を実施している,術前のBarthel index(以下,BI)が60点以上であり歩行可能である,とした。除外基準は,術後の深刻な合併症がない,術後長期にわたって荷重許可されない,病的骨折がある,多発性骨折である,とした。BIが60点未満をADL低下と定義した(Granger, et al., 1979)。術後1年のADL低下の予測因子は,参加者の基本医学属性,術後の疼痛,歩行形態,CS-30,認知機能(HDS-R)および受傷後BI歩行とした。ロジスティック回帰分析にて有意だった変数に対して,Receiver Operating Characteristic(ROC)曲線を使って尤度比が最大となるカットオフ値を算出し,感度,特異度,陽性尤度比を算出した。さらに,術後1年のBIが60点未満の事前確率を求め,ベイズの定理に基づき,変数ごとに事後確率を算出した。
【結果】
2013年9月から2015年6月の間に事前の基準に合致した対象者は,2施設37名であり,施設間でベースラインに差はなかった。術後1年のBIが60点未満の事前確率は30.5%であった。ロジスティック回帰分析の結果,BIが60点未満の有意な予測因子は,入院時のHDS-Rと術後3週のBI歩行であった。入院時のHDS-Rに対してROC分析を行った結果,60点以上・未満の判別におけるカットオフ値と診断性能は,15点未満,感度0.73,特異度0.76,陽性尤度比3.03であった。その時の事後確率は,63.0%であった。術後3週のBI歩行に対してROC分析を行った結果,60点以上・未満の判別におけるカットオフ値と診断性能は,5点未満,感度0.82,特異度0.92,陽性尤度比10.22であった。その時の事後確率は,85.0%であった。
【結論】
本研究の結果から,術後3週の時点で大腿骨近位部骨折術後患者の1年後のBIは予測可能であるというエビデンスが得られた。しかし,術後3週の歩行能力を向上させる運動介入は,特定できていないため今後の課題である。
大腿骨近位部骨折患者は,歩行能力の回復に時間を要し,1年後も2割が寝たきりになることもあると報告されている(Tsuboi, et al., 2007)。理学療法士には,大腿骨近位部骨折術後の日常生活活動(ADL)を速やかに回復させ,1年後にADLを低下させないことが求められる。しかしながら,術後1年以内のADL低下に影響を及ぼす危険因子(入院中の身体機能や歩行能力)のカットオフ値は,我々が知る限り報告されていない。本研究の目的は,大腿骨近位部骨折患者の術後1年のADLに影響を及ぼすと考えられる入院中の身体機能および歩行能力を調べ,ADL低下を予測するためのカットオフ値を算出することであった。
【方法】
本研究のデザインは,多施設共同前向きコホート研究であった。共同研究施設は,済生会呉病院および済生会広島病院とした。組み入れ基準は,大腿骨近位部骨折患者である,手術を実施している,術前のBarthel index(以下,BI)が60点以上であり歩行可能である,とした。除外基準は,術後の深刻な合併症がない,術後長期にわたって荷重許可されない,病的骨折がある,多発性骨折である,とした。BIが60点未満をADL低下と定義した(Granger, et al., 1979)。術後1年のADL低下の予測因子は,参加者の基本医学属性,術後の疼痛,歩行形態,CS-30,認知機能(HDS-R)および受傷後BI歩行とした。ロジスティック回帰分析にて有意だった変数に対して,Receiver Operating Characteristic(ROC)曲線を使って尤度比が最大となるカットオフ値を算出し,感度,特異度,陽性尤度比を算出した。さらに,術後1年のBIが60点未満の事前確率を求め,ベイズの定理に基づき,変数ごとに事後確率を算出した。
【結果】
2013年9月から2015年6月の間に事前の基準に合致した対象者は,2施設37名であり,施設間でベースラインに差はなかった。術後1年のBIが60点未満の事前確率は30.5%であった。ロジスティック回帰分析の結果,BIが60点未満の有意な予測因子は,入院時のHDS-Rと術後3週のBI歩行であった。入院時のHDS-Rに対してROC分析を行った結果,60点以上・未満の判別におけるカットオフ値と診断性能は,15点未満,感度0.73,特異度0.76,陽性尤度比3.03であった。その時の事後確率は,63.0%であった。術後3週のBI歩行に対してROC分析を行った結果,60点以上・未満の判別におけるカットオフ値と診断性能は,5点未満,感度0.82,特異度0.92,陽性尤度比10.22であった。その時の事後確率は,85.0%であった。
【結論】
本研究の結果から,術後3週の時点で大腿骨近位部骨折術後患者の1年後のBIは予測可能であるというエビデンスが得られた。しかし,術後3週の歩行能力を向上させる運動介入は,特定できていないため今後の課題である。