第51回日本理学療法学術大会

Presentation information

一般演題ポスター

日本運動器理学療法学会 一般演題ポスター
運動器P35

Sun. May 29, 2016 10:00 AM - 11:00 AM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-MT-35-2] 集学的治療において理学療法が有効であった慢性痛症例の治療経験

下和弘, 梶田比奈子, 鈴木千春, 西原真理, 畠山登, 牛田享宏 (愛知医科大学学際的痛みセンター)

Keywords:慢性痛, 集学的治療, 運動療法

【はじめに,目的】

愛知医科大学学際的痛みセンター(以下,痛みセンター)では,医師,看護師,理学療法士らが慢性痛患者の集学的治療にあたっている。痛みセンターを受診する患者の症状や状態は多岐にわたるが,患者のなかには理学療法を含めた集学的治療が非常に有効であったと考えられる症例がある。今回,それらの患者の特徴と治療経過について報告する。




【方法】

対象の患者は6名(女性2名,男性4名,年齢50-76歳)で,主な疼痛部位は腰部,下肢,頚部,上背部であった。罹患期間は7-77ヶ月で,痛みセンター受診までの受診施設数は2-7,受診時の痛みの強さはNRS 3-10/10,疼痛生活障害評価尺度(Pain Disability Assessment Scale:PDAS)は0-35/60,疼痛破局的思考尺度(Pain Catastrophizing Scale:PCS)は20-39/52,健康関連QOL(EQ-5D)は0.418-0.785/1,痛みの自己効力感(Pain Self-Efficacy Questionnaire:PSEQ)は13-54/60,ロコモ25は7-74/100であった。

痛みセンターでは,理学療法開始前に医師による診察でred flagsの該当の有無について十分に検討されており,患者には「動かしてもよい」「動かす必要がある」と説明をしたうえで理学療法を実施した。理学療法では,実施可能な簡単な内容の運動をホームエクササイズとして指導し,運動の実施状況を理学療法士が確認したうえでペーシングに留意して運動の量や負荷を漸増させた。また,治療目標は痛みの除去や軽減ではなく,痛みによって制限されている日常生活活動の拡大として介入を行った。介入頻度は2週間から8週間に1回とし,再評価は初診から3ヶ月以降の理学療法実施時に行った。




【結果】

対象の患者は理学療法を含めた集学的治療により,痛みの強さ(NRS 0-6),PDAS(0-28),PCS(6-24),EQ-5D(0.649-1),PSEQ(26-60),ロコモ25(2-68)が改善した。理学療法が有効であった症例は共通して,安静に対する誤った認識を持ち,これまでに理学療法士による運動器の評価や具体的な運動指導の機会がなく,偏った動作・姿勢と関連する筋の機能異常がうかがえた。




【結論】

明らかな器質的異常を認めない慢性痛患者については,理学療法士による身体機能のアセスメントと患者個々に応じた具体的なホームエクササイズの指導を考慮する必要性がうかがえた。また,今回報告した症例では,痛みセンター受診以前に複数の医療機関を受診し,様々な検査や加療が行われていたにも関わらず,理学療法士による運動器の評価や適切な運動の指導がなされておらず,慢性痛の病態や慢性痛に対する理学療法の適応についての理解が医療職者の中で不足している可能性が考えられた。今後は,慢性痛患者における理学療法の実施の有無やその内容についての調査を行い,理学療法が必要と考えられる慢性痛患者に適切に理学療法が実施されているかについて現状を把握する必要がある。