第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本運動器理学療法学会 一般演題ポスター
運動器P35

2016年5月29日(日) 10:00 〜 11:00 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-MT-35-5] 日本語版Central Sensitization Inventory(CSI-J)の開発:言語的妥当性を担保した翻訳版の作成

余野聡子1, 西上智彦2,3, 壬生彰1, 田中克宜1, 安達友紀4, 松谷綾子3, 田辺暁人1, 片岡豊1 (1.田辺整形外科上本町クリニック, 2.Sansom Institute for Health Research, University of South Australia, 3.甲南女子大学看護リハビリテーション学部理学療法学科, 4.大阪大学大学院人間科学研究科臨床心理研究分野)

キーワード:痛み, 中枢性感作, 質問紙

【はじめに,目的】

中枢性感作(Central Sensitization:CS)とは中枢神経系の過度な興奮によって,疼痛,疲労,集中困難及び睡眠障害などの症状を引き起こす神経生理学的徴候である。CSは線維筋痛症,複合性局所疼痛症候群及び慢性腰痛などの病態に関与していることが明らかになっていることから,慢性痛に対して,CSの概念を考慮した評価及び治療介入が必要である。近年,CSの評価として,自記式質問紙であるCentral Sensitization Inventory(CSI)がスクリーニングツールとして開発され,臨床的有用性が報告されているが,CSIの日本語版は作成されていない。そこでCSIの原版を日本語に翻訳し,その言語的妥当性を検討した。


【方法】

日本語版CSIの開発に先立って,原著者から許可を得た。その後,言語的に妥当な翻訳版を作成する際に標準的に用いられる手順(順翻訳→逆翻訳→パイロットテスト)に従って開発を進めた。順翻訳,逆翻訳を行い原著者とともに翻訳案の検討を行い,原版との内容的な整合性を担保した日本語暫定版を作成した。日本語暫定版の文章表現の適切性,内容的妥当性,実施可能性を検討するため,日本語を母国語とし,当院に来院する外来患者6名(男性:3名,女性:3名,平均年齢51.8歳)を対象に個別面談方式によるパイロットテストを実施した。回答終了後,質問紙に関するアンケートを行い,「はい」「いいえ」「どちらでもない」の3択で参加者に回答を求めた。


【結果】

原著者に逆翻訳版にて確認を行ったところ,Q11は“I feel discomfort in my bladder and/or burning when I urinate”を“.排尿時に,膀胱に不快感や灼熱感を感じる”としたが,灼熱感は膀胱ではなく性器に生じるとの指摘を受け,“膀胱の不快感と排尿時の灼熱感の両方,またはいずれか一方を感じる”と表現を変更し,了承を得た。Q17は原文では“low energy”となっているが逆翻訳では“no energy”となっているとの指摘を受けたが,同義語であることを説明し了承を得た。また“and/or”と“and”の違いを明確に区別するべきとの指摘を受け,“両方またはいずれか”との表現へ変更した。

パイロットテストでの質問票の平均回答時間は219.5秒(範囲:158~314,中央値:207)であった。回答後アンケートでは回答に要する時間,質問数が適当であるかという問いに対して5名が「はい」,1名が「どちらでもない」と回答した。全体的にわかりやすかったかとの問いに対して1名が 「いいえ」と回答し,理由として5つの選択肢の差別化が図りにくいとの意見が得られた。そこで選択肢を差別化しやすい表現に変更し,日本語版CSIを完成させた。


【結論】

本研究において翻訳版開発の標準的な手続きを経て日本語版を作成し,さらにパイロットテストを実施することで内容の妥当性や表現の適切性が確認され,実施可能性のある日本語版CSIが完成した。今後,臨床的に使用するために信頼性と妥当性の検討を行う必要がある。