第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本運動器理学療法学会 一般演題ポスター
運動器P37

Sun. May 29, 2016 10:00 AM - 11:00 AM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-MT-37-5] 大腿骨近位部骨折後の肺炎発症が急性期病院における生命予後および機能予後に及ぼす影響

半田和也1, 熊代功児1, 小根田夏子1, 塩出速雄2 (1.倉敷中央病院リハビリテーション部, 2.倉敷中央病院整形外科)

Keywords:大腿骨近位部骨折, 肺炎, 予後

【はじめに,目的】

大腿骨近位部骨折後の機能再獲得には早期手術,リハビリテーションの介入が望まれているが,入院後合併症を併発することで遅延する場面を経験する。なかでも肺炎は死亡率を高くすると報告されている。本研究の目的は,大腿骨近位部骨折後の肺炎発症が急性期病院における生命予後および機能予後に及ぼす影響を明らかにすることである。

【方法】

対象は2014年1月から2015年6月に大腿骨近位部骨折にて当院整形外科に入院した65歳以上の患者150例(男性33例,女性117例,平均年齢81.7±8.4歳)とした。保存療法,病的骨折,院内発症例は除外した。まず,肺炎発症が生命予後に及ぼす影響を調査するために,肺炎の有無,当院退院時の転帰(自宅退院・転院・死亡)を後方視的に調査した。統計解析は,対象者を肺炎発症群と非発症群に分類し,χ2検定を用いて転帰を比較した。次に,肺炎発症が機能予後に及ぼす影響を調査するために,肺炎の有無,年齢,認知症の有無,受傷前および退院時歩行能力を後方視的に調査した。統計解析は,退院時歩行能力を従属変数,肺炎の有無,年齢,認知症の有無,受傷前歩行能力を独立変数として強制投入したロジスティック回帰分析を行い,退院時歩行能力と独立して関連する要因を検討した。受傷前および退院時歩行能力は,歩行可否を判断基準とし,歩行補助具は問わなかった。統計学的有意水準は5%した。

【結果】

肺炎発症群は12例(発生率8%),当院退院時の転帰は,自宅退院8例,転院139例,死亡3例であった。χ2検定の結果,肺炎発症群で有意に死亡が多く,肺炎発症群の死亡率は25%であった(p<0.001)。ロジスティック回帰分析の結果,退院時歩行能力に影響する要因として,受傷前歩行能力(OR:3.909,95%CI:1.526-10.079),肺炎の有無(OR:3.396,95%CI:1.023-11.280),認知症の有無(OR:2.830,95%CI:1.325-6.044)が有意な項目として抽出され,年齢は抽出されなかった(モデルχ2検定p<0.001)。

【結論】

先行研究における大腿骨近位部骨折患者の入院後肺炎発生率は7~9%であり今回の結果も8%と同様であった。肺炎発症群の死亡率は25%と非発症群に比べて有意に高値であった。合併症のない大腿骨近位部骨折の術後30日の死亡率は9.6%と報告されており,大腿骨近位部骨折患者における肺炎発症は生命予後に影響することが示された。さらに急性期病院における退院時歩行能力に影響する要因の一つに肺炎の有無が挙げられた。これは大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドラインにおいて機能予後に影響すると報告されている年齢,認知症,受傷前歩行能力と比較しても受傷前歩行能力に次いで影響していた。受傷前歩行能力,認知症はすでに受傷時に決定している患者要因であり,機能予後を改善するために医療者が関与できるものではない。急性期病院における生命予後,機能予後を改善させるためには入院後の肺炎発症を予防することが重要な要因と考える。