第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本神経理学療法学会 一般演題ポスター
神経P04

Fri. May 27, 2016 11:50 AM - 12:50 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-NV-04-1] 頚髄損傷後に徐脈を呈し,理学療法中に洞停止を来した一例

稲月辰矢1, 伊藤拓緯2 (1.新潟市民病院リハビリテーション技術科, 2.新潟市民病院整形外科)

Keywords:頚髄損傷, 洞停止, 理学療法

【はじめに,目的】

頚髄損傷は交感神経系の遮断により相対的に副交感神経が優位となり徐脈をきたす場合がある。また,迷走神経過反射が誘発されることで徐脈がさらに助長されて心停止を生じる可能性もあるとされる。今回頚髄損傷に対して後方固定術を施行し,亜急性期の理学療法実施中に洞停止を来した症例を経験した。その詳細と今後の当科での予防的対応策について検討したので報告する。

【方法】

性別:男性 年齢:80歳代 診断名:第6頸椎脱臼骨折,第6頚髄損傷,神経原性ショック 現病歴:2014年9月,本人が自動車運転中に山道を車ごと7m下に転落。1時間後通行人が発見し,救急搬送。来院時意識レベルGCS E1V1M1,収縮期血圧88mmHg,脈拍67,肛門反射は認めず,C7以下の完全運動麻痺,知覚障害あり,Frankel A。

【結果】

2病日目意識レベルGCS E4V-M6まで改善するも,低血圧と洞性徐脈が出現したためドパミンを開始。4病日目より理学療法開始し,ドパミンが中止となったが,脈拍40台の洞性徐脈は残存。10病日目C6-7後方固定術を施行し,11病日目に理学療法を再開,21病日目より車椅子乗車してリハビリ室での座位,起立台練習を開始した。起立台練習では40°起立で収縮期血100mmHgから70mmHgまで低下あり,対応策として下腿に対する弾性ストッキングを利用した。28病日目も起立台練習実施したが,30°起立で収縮期血圧100mmHgから70mmHgまで低下したため水平に戻した。その直後に声かけに対する反応が乏しくなり,検脈・血圧測定不可,呼吸停止,洞停止し,院内の急変対応チームに応援要請。担当理学療法士が胸骨圧迫を開始し,1分後救急医到着した際に心拍再開し,ICU入室。翌日より理学療法再開したが37病日目病棟看護師による尿道カテーテル交換中に再度洞停止あり,胸骨圧迫にて20秒程度で心拍再開した。その後,ベッドサイドでの理学療法介入となり,59病日目回復期病院へ転院となった。

【結論】

先行報告では頚髄損傷患者において徐脈から洞停止に至るケースは超急性期を脱しても生じる可能性があるとし,徐脈発生率は高位頚髄損傷で45%,下位頚髄損傷で17%,頚髄損傷全体の心停止発生率は2%としているが,重度頚髄損傷に限定すると心停止発生率は16%だった。このことから,頚髄損傷が重度で,かつ高位損傷なほど徐脈,心停止発生率が高いと考えられる。本症例の場合,亜急性期で下位頚髄損傷であったが重度麻痺を呈し,徐脈が遷延していた。今回の洞停止は理学療法場面での起立台練習による起立性低血圧や,尿道カテーテル交換に伴う迷走神経過反射が,副交感神経系優位とし徐脈から洞停止を惹起した可能性が考えられる。今回の症例を経験し,当科では重度頚髄損傷で徐脈(脈拍60以下)を呈する場合については理学療法実施中の心電図を含むモニタリングを徹底し,また起立性低血圧の予防として下腿のみでなく,腹部までを加圧するパンティストッキングの導入を検討している。