第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本神経理学療法学会 一般演題ポスター
神経P04

Fri. May 27, 2016 11:50 AM - 12:50 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-NV-04-4] 脊髄髄内上衣下腫摘出術後一症例に対して早期歩行獲得を目指した理学療法経験

感覚性運動失調に対するアプローチ

宮﨑紗也佳1, 池田耕二2, 井上良太1, 田中秀和1, 北村哲郎1, 竹島靖浩3, 堀川博誠4, 中瀬裕之3 (1.奈良県立医科大学附属病院医療技術センター, 2.大阪行岡医療大学医療学部理学療法学科, 3.奈良県立医科大学脳神経外科, 4.奈良県立医科大学附属病院リハビリテーション科)

Keywords:脊髄髄内腫瘍, 感覚性運動失調, 歩行獲得

【はじめに,目的】

脊髄髄内上衣下腫は稀な疾患であり,世界保健機関の分類によると良性な腫瘍とされている。術後は運動,感覚障害,疼痛等が問題になるが比較的機能予後は良好とされている。しかし術後の理学療法や具体的な回復過程に関する報告は見当たらない。

今回,胸髄髄内上衣下腫術後一症例に対して運動療法を行い,感覚性運動失調に着目した工夫を取り入れ,早期歩行獲得を目指した理学療法を経験したので報告する。
【方法】

方法は症例研究とする。症例は20代男性,診断名は胸髄髄内上衣下腫(胸椎10/11~12)である。現病歴は,歩行障害が出現し当院を受診,表在感覚障害や下肢の徒手筋力検査(以下,MMT)にて4/5の筋力低下があった。排尿障害は認めず,深部腱反射(以下,DTR)は正常,日常生活活動は機能的自立度評価表(以下,FIM)にて126点であった。上記診断のもと亜全摘出術が行われ,術後翌日より理学療法開始となった。

【結果】

術後評価にて創部痛,右下肢の異常痛覚と左下肢の表在・深部感覚の脱失を認めた。両下肢DTRは正常であり,運動誘発性の下肢痛により右下肢の筋力低下(右MMT3/5,左4/5)があった。併せて左下肢に感覚性運動失調を認めた。床上動作は創部痛により困難であったが,それを誘発しない動作を指導し自立させた。4日目に坐位・起立練習が可能となり,5日目に創部痛は消失し,右下肢の異常痛覚の範囲が狭小化した。筋力は左右ともMMT4/5レベルとなり,平行棒内歩行を開始した。10日目に右の異常痛覚はほぼ消失し,歩行器歩行を開始したが,左下肢に膝折れや振り出時の不安定性を認めた。歩行再獲得には術後の回復過程において感覚情報を活用し運動制御していくことが有効と考えた。このため,鏡による視覚フィードバックを歩行練習に取り入れながら,歩行中に身体の一部に注意を向けるよう促し,皮膚の伸張感や足底の感覚などを探索させた。14日目に左足底の表在感覚が回復(4/10)し,意識下では左下肢の振り出しの不安定性が改善し,膝折れも消失した。このため,次の段階として無意識下で自動制御することを目的に,感覚に対する注意を排除するよう指導し歩行練習を行った。20日目に,左足底の表在感覚が8/10となり,無意識下でも膝折れは出現せず,左下肢の振り出しも安定した。1ヶ月後感覚障害に変化は無かったが,屋内歩行自立(10m歩行:12秒),屋外歩行見守りとなった。最終的にFIMは125点となった。

【結論】

脊髄髄内上衣下腫術後には,運動,感覚障害(後索障害等も含む),疼痛等が大きな問題となる。本症例においては早期歩行獲得を目指し,感覚性運動失調に対して歩行時に入力されうる感覚情報を意識するよう促し動作練習を行った。深部感覚脱失は残存したものの,術後回復を支援する形で早期に歩行が可能になったと考えられる。年齢が若く理解力があったことや術前機能が良かったことも効果に影響していると思われた。