第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本神経理学療法学会 一般演題ポスター
神経P04

Fri. May 27, 2016 11:50 AM - 12:50 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-NV-04-5] 急性期病院における胸腰髄損傷患者の移乗動作獲得期間と阻害因子

岡本晴香1, 武井圭一1, 一氏幸輔1, 師岡祐輔2, 國澤洋介2, 山本満1 (1.埼玉医科大学総合医療センターリハビリテーション科, 2.埼玉医科大学保健医療学部理学療法学科)

Keywords:急性期, 脊髄損傷, 移乗動作

【はじめに,目的】

胸腰髄損傷患者では明らかな阻害因子がない限り,残存高位に関わらず車いすを用いた生活は自立するとされる。しかし,これは受傷後数ヶ月以降の結果であり,詳細な経時的変化は不明である。また,急性期における理学療法(PT)では,獲得時期も踏まえた目標設定が必要となる。本研究の目的は,胸腰髄損傷患者の急性期病院入院中における移乗動作獲得期間と獲得に関連する要因を検討し,急性期理学療法の目標設定の一助とすることである。


【方法】

対象は,過去6年間(2008-2014年)に当院へ入院し,理学療法を実施した胸腰髄損傷患者で,以下の基準を満たした21例とした。取込基準は,PT開始時の改良Frankel分類(改F分類)がA-C1の対麻痺例,プッシュアップ動作によるベッド・車いす間の移乗動作獲得を目標とした例。除外基準は死亡退院例とした。調査項目は,移乗動作能力,年齢,残存高位(PT開始時),改F分類(PT開始時・最終時),合併症とし,診療録より収集した。移乗動作能力は機能的動作尺度(FMS)を用い,獲得(自立・修正自立・見守り)・非獲得(一部介助・全介助)について術後8週まで調査し,各週における獲得・非獲得例の割合を算出した。合併症は,活動やPT介入を制限するようなものを抽出した。また,術後8週時点の移乗動作獲得状況をもとに獲得・非獲得群の2群に分類し,各項目について比較した。分析方法は,年齢はt検定,残存高位(Th11以上,Th12以下)・改F分類(AとB・C)・合併症の有無はカイ2乗検定を用いた。統計解析にはIBM SPSS Statistics ver19を使用し,有意水準を5%とした。


【結果】

術後8週までの移乗動作累積獲得率は,1-2週が0%,3週が10%,4週が14%,5週が19%,6-8週が33%であった。術後8週時点の獲得群は7例(33%),非獲得群は8例(38%)であり,術後8週までに非獲得のまま転院となった追跡不能例は6例(29%)であった。各項目の比較は,年齢(平均値±標準偏差)は,獲得群が41±16歳,非獲得群が53±25歳(p≧.05)であった。残存高位は獲得群がTh11以上0例,Th12以下7例,非獲得群がTh11以上7例,Th12以下1例(p<.05)であった。改F分類のPT開始時は獲得群がA:3例,B:2例・C:2例,非獲得群がA:6例,B:1例・C:1例(p≧.05),PT最終時は獲得群がA:2例,B:1例・C:4例,非獲得群がA:4例,B:1例・C:3例(p≧.05)であった。合併症は獲得群で1例,非獲得群で7例に認めた(p<.05)。


【結論】

回復期病院転院までの2ヶ月以内に,胸腰髄損傷患者がベッド・車いす間の移乗動作を獲得できた割合は,約3割であり,獲得するために3週以上を要することが示唆された。また,残存高位がTh11以上または,活動やPT介入を制限するような合併症がある場合,移乗動作獲得に8週以上の期間を要し,長期的な動作獲得に向けた機能改善や生活指導が急性期理学療法の役割として重要であることが考えられた。