第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本神経理学療法学会 一般演題ポスター
神経P05

2016年5月27日(金) 15:20 〜 16:20 第11会場 (産業振興センター 2階 セミナールームA)

[P-NV-05-1] 脳血管障害患者における矢状面での主観的身体垂直の相違についての検討

―感覚障害の重症度による比較―

高橋洋介1, 深田和浩1,3, 角屋亜紀1, 藤野雄次1, 播本真美子1, 井上真秀1, 蓮田有莉1, 三浦孝平1, 高石真二郎1, 牧田茂2, 高橋秀寿2, 網本和3 (1.埼玉医科大学国際医療センターリハビリテーションセンター, 2.埼玉医科大学国際医療センターリハビリテーション科, 3.首都大学東京大学院)

キーワード:主観的身体垂直, 矢状面, 感覚障害重症度

【はじめに,目的】垂直性の評価の1つとして主観的身体垂直(Subjective Postural Vertical:以下SPV)が重要視され,半側空間無視例やpusher現象例だけでなく,感覚障害によっても前額面の垂直判断に影響を与えるとされている。近年,矢状面でのSPVは加齢に伴い後方へ偏倚し,立位バランス指標との関連が報告されている。加齢に伴う体性感覚や身体機能の減衰が垂直判断に関与すると考えられ,運動麻痺や感覚障害等の機能障害を呈した脳血管障害患者では更なる変容が示唆される。そこで本研究の目的は,感覚障害の重症度における矢状面でのSPVの差異について検証することとした。


【方法】対象は,高次脳機能障害を認めない脳血管障害患者20名(70±6.7歳,男性12例,女性8例,脳梗塞:15例,脳出血:5例)とし,Stroke Impairment Assessment Setの「感覚機能」にて表在覚・位置覚共に2点以上の群(以下良好群)と,1点以下の群(以下不良群)の2群に分類した。参考値として年齢の一致した健常成人13名(以下対照群,年齢:67±4.7歳,性別:男性6例,女性7例)の結果を示した。臨床指標として下肢Brunnstrom Recovery Stage(以下BRS)と,Trunk Control Test(以下TCT)を評価した。SPVの測定は垂直認知測定機器(Vertical Board:以下VB)を用いた。対象者は閉眼位でVB上に座位となり,検者が前もしくは後ろに15°あるいは20°傾けた位置から反対方向に1.5°/秒の速さで回転させ,対象者が垂直と判断した位置を記録した。角度は前方への偏倚をプラス,後方への偏倚をマイナスとした。計8回測定し平均値を傾斜方向性,標準偏差値を動揺性とし算出した。統計学的手法として,良好群と不良群の基本属性と垂直パラメータの比較には対応のないt検定とMann-WhitneyのU検定を用いた。統計ソフトはPASWver18を使用し,有意水準は5%とした。


【結果】2群間で基本属性とTCTに有意差を認めず,下肢BRSは良好群でI:1例,III:4例,IV:6例,V:2例,不良群でII:2例,III:1例,V:4例であった。傾斜方向性は対照群,良好群,不良群において-2.7±1.8°,-2.5±2.5°,-6.1±3.6°であり,良好群と不良群で有意差を認めた(p<0.05)。一方で動揺性はそれぞれ3.5±0.9°,5.9±3.7°,4.6±1.8°であり,有意差を認めなかった。


【結論】本研究から,不良群は良好群と比較しSPVが後方へ偏倚することが示された。一般的に,身体の垂直判断は前庭,視覚,体性感覚により保障されている。Bisdorffらは前庭障害患者では矢状面のSPVの傾斜方向性は垂直であると報告しており,視覚に依存しない身体の垂直判断には前庭の関与は低いことを指摘している。またBarbieriらは矢状面のSPVには体性感覚の重力知覚が関与することを指摘しており,本研究の結果から脳損傷に伴う感覚障害は直接的にSPVの後方偏倚を修飾することが示唆された。今後は症例数を増やし,矢状面のSPVとADLとの関連を検討していく必要がある。