[P-NV-05-2] Pusher現象に対する両下肢固定による立位での能動的課題の介入効果~シングルケースデザインを用いた検討~
Keywords:Pusher現象, バランス, シングルケースデザイン
【はじめに,目的】
Pusher現象の治療は,垂直指標の付与や座位における非麻痺側での重心移動課題,長下肢装具を使用した立位や歩行練習などが推奨されている。しかし重度のPusher現象例では長下肢装具を使用しても十分なアライメントの補正が得られず,介助下における姿勢保持が困難なことも少なくない。更に装具や杖を使用した立位練習では能動的な姿勢制御が得られ難く,基本動作などに汎化しづらいことを経験する。今回我々は,重度の片麻痺患者に対し,安全かつ簡便に能動的な立位バランス練習の可能な機器を使用し,体幹機能の向上やPusher現象の改善を経験したので報告する。
【方法】
症例は70歳代男性。右中大脳動脈領域の心原性脳塞栓症で当院に入院し,本研究の手続きは第26病日から行った。バランス練習にはバランストレーナー(メディカ社製)を用いた。これは,患者を電動リフトで車椅子座位から立位にすることが可能であり,立位では腰部,両膝関節,両足部をパッドで固定することで体幹や下肢を伸展位保持させつつ前後左右などの水平面における能動的な重心移動練習ができる機器である。研究デザインは,ABA法のシングルケースデザインを用い,A1をベースライン期(6日),Bを介入期(3日),A2をフォローアップ期(8日)に設定し,B期のみ通常の理学療法に加えバランストレーナーを用いた立位練習を追加した。練習内容は,バランストレーナーにおいて立位を保持させた状態で風船バレーを15分間実施した。ベースライン期の意識は清明,Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)の合計点は25点であった。介入効果は,Scale for Contraversive Pushing(SCP),Pusher重症度分類,Burke Latelopulsion Scale(BLS),Trunk Control Test(TCT),SIASの体幹機能(腹筋力)を評価し,A1前,B前,B後,A2後で比較,検討した。
【結果】
SCPの点数はA1前,B前,B後,A2後の順に6,6,3,3であった。同順にPusher重症度分類は6,6,2,3,BLSは14,13,4,5,TCTは12,12,24,24,SIASの体幹機能(腹筋力)は0,0,2,2であった。
【結論】
従来,Pusher現象に対しては,視覚的フィードバックなどによる認知的側面からのアプローチが主であったが,本研究では能動的なバランス練習による症状の改善が示唆された。本症例においては,バランストレーナーの使用により非麻痺側下肢における「押す」動作を防ぐことが可能となり,さらには能動的な体幹筋の抗重力活動が得られ無意識下での姿勢制御能力が向上し,Pusher現象が改善したと考えられた。工学的技術を取り入れた斬新かつ効果的な理学療法の展開は,セラピストの経験年数を問わずして簡便で再現性のある治療を可能とするのみならず,患者の潜在能力を顕在化させる可能性があると思われた。
Pusher現象の治療は,垂直指標の付与や座位における非麻痺側での重心移動課題,長下肢装具を使用した立位や歩行練習などが推奨されている。しかし重度のPusher現象例では長下肢装具を使用しても十分なアライメントの補正が得られず,介助下における姿勢保持が困難なことも少なくない。更に装具や杖を使用した立位練習では能動的な姿勢制御が得られ難く,基本動作などに汎化しづらいことを経験する。今回我々は,重度の片麻痺患者に対し,安全かつ簡便に能動的な立位バランス練習の可能な機器を使用し,体幹機能の向上やPusher現象の改善を経験したので報告する。
【方法】
症例は70歳代男性。右中大脳動脈領域の心原性脳塞栓症で当院に入院し,本研究の手続きは第26病日から行った。バランス練習にはバランストレーナー(メディカ社製)を用いた。これは,患者を電動リフトで車椅子座位から立位にすることが可能であり,立位では腰部,両膝関節,両足部をパッドで固定することで体幹や下肢を伸展位保持させつつ前後左右などの水平面における能動的な重心移動練習ができる機器である。研究デザインは,ABA法のシングルケースデザインを用い,A1をベースライン期(6日),Bを介入期(3日),A2をフォローアップ期(8日)に設定し,B期のみ通常の理学療法に加えバランストレーナーを用いた立位練習を追加した。練習内容は,バランストレーナーにおいて立位を保持させた状態で風船バレーを15分間実施した。ベースライン期の意識は清明,Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)の合計点は25点であった。介入効果は,Scale for Contraversive Pushing(SCP),Pusher重症度分類,Burke Latelopulsion Scale(BLS),Trunk Control Test(TCT),SIASの体幹機能(腹筋力)を評価し,A1前,B前,B後,A2後で比較,検討した。
【結果】
SCPの点数はA1前,B前,B後,A2後の順に6,6,3,3であった。同順にPusher重症度分類は6,6,2,3,BLSは14,13,4,5,TCTは12,12,24,24,SIASの体幹機能(腹筋力)は0,0,2,2であった。
【結論】
従来,Pusher現象に対しては,視覚的フィードバックなどによる認知的側面からのアプローチが主であったが,本研究では能動的なバランス練習による症状の改善が示唆された。本症例においては,バランストレーナーの使用により非麻痺側下肢における「押す」動作を防ぐことが可能となり,さらには能動的な体幹筋の抗重力活動が得られ無意識下での姿勢制御能力が向上し,Pusher現象が改善したと考えられた。工学的技術を取り入れた斬新かつ効果的な理学療法の展開は,セラピストの経験年数を問わずして簡便で再現性のある治療を可能とするのみならず,患者の潜在能力を顕在化させる可能性があると思われた。