第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本神経理学療法学会 一般演題ポスター
神経P05

Fri. May 27, 2016 3:20 PM - 4:20 PM 第11会場 (産業振興センター 2階 セミナールームA)

[P-NV-05-3] Lateropulsionと右半側空間無視を呈した左MCA患者に対する視覚情報を付与した部分免荷式トレッドミルトレーニングの歩幅の対称性への影響

事前評価と短期介入で結果が異なった症例

若竹雄治, 荒川達彌, 田中一樹, 三好正浩, 松本憲二, 坂本知三郎 (関西リハビリテーション病院)

Keywords:Lateropulsion, 右半側空間無視, 視覚情報

【はじめに,目的】

Lateropulsionを含む姿勢の垂直性の障害には右半球が関わるとされ,右MCA梗塞患者は閉眼立位で,足圧中心(以下,COP)の内外側変位が過剰となること(Manorら2010)や歩行の対称性が低下すること(Chenら2014)が報告される。COP偏移は特に,開眼条件では健常者と同等であったとされ,姿勢制御に視覚が重要な役割を持つことを示唆している。

本症例は左MCA梗塞にも関わらず,標準失語症検査上,書字以外で高得点を示し,右半側空間無視を呈した(行動性無視検査112/141)。また,lateropulsion様の姿勢を呈し,歩幅は非対称的であった。これらから本症例は,脳の左右機能分化の不全型と考えられた。このため本症例の歩幅の対称性には,免荷式トレッドミルトレーニング(以下,BWSTT)に,麻痺側歩幅の大きさに注意を向ける条件(以下,“視覚条件”)を加えた介入が有効と仮設をたて,短期効果を確認した。


【方法】

本症例は70歳代男性で,発症時に右完全片麻痺を認め,MRIにて左大脳半球の新鮮梗塞巣と左MCA閉塞を認めた。その後,MMTで下肢3/5まで麻痺は改善し,発症28日目に当院へ転院した。初期評価で,静止立位時のCOPは右に偏移し,姿勢はlateropulsion様であった。また,“視覚条件”が有効という仮説が正しいかどうかを,自身の足部を隠した条件と床の線を跨ぐように促した条件を比較し,後者の歩幅が大きかったことから確認した。BWSTTは免荷量10%,速度1.5km/hで固定し,介助は提供しなかった。1日につき5分3セットを,発症58~64日間で毎日行った。“視覚条件”は,機器上にマークした10cm大の標的に対して,麻痺側足部を近づけるよう指示し続けた。静止立位時のCOP偏移の計測は,エチュードボーExを用いた。歩幅の非対称性は,歩行動画と動画解析ソフトTrackerによって抽出した歩幅を,Symmetry Index(0に近づくほど対称的)を用いて数値化した。加えて,膝伸展・足背屈筋力,12段階の片麻痺グレード(以下,グレード),Functional Ambulation Classification(以下,FAC)を評価した。


【結果】

介入前の膝伸展・足背屈最大筋力(N)の平均±標準偏差(右/左)は249.2±18.2/234.1±8.0・184.2±6.9/155.2±12.3であった。膝伸展・足背屈最大筋力は二標本のt検定により期間前後で有意差がなかったことを確認した。グレードもV-2のままであった。COPの左右動揺中心(cm),FAC,歩幅の対称性は,2.5±1.4→-1.8±0.5,3→4,66.5→62.4と変化した。


【結論】

COP偏移が麻痺側から健側へ変わり,lateropulsionは改善した。これはFAC改善の一因と考えられた。一方,歩幅の対称性に大きな変化はなかった。本症例の歩幅の対称性は“視覚条件”により即時的に改善したが,練習効果が得られなかった要因として注意障害により視覚情報を5分間処理し続けられなかったことが予想された。今後は訓練時間を再検討し,視覚情報を付与したBWSTT効果を同様の対象者で検証したい。