第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本神経理学療法学会 一般演題ポスター
神経P05

2016年5月27日(金) 15:20 〜 16:20 第11会場 (産業振興センター 2階 セミナールームA)

[P-NV-05-6] 応用行動分析学的介入により,靴の着脱動作が定着した失行症を呈した症例の報告

安部祐子, 三輪香奈穂, 小林康睦, 熊橋馨子, 斎藤亮, 増田千華, 松井香那葉, 田野裕子 (新座病院)

キーワード:失行, 応用行動分析学, 学習

【はじめに,目的】

今回,左視床出血発症後右片麻痺,高次脳機能障害を呈し,失行症の影響で靴を履く際にベッドから転落の危険性が高かった症例に対し,応用行動分析学(Applied Behavior Analysis:以下ABA)を用いた介入を行ったところ,安全に見守りで靴を履くことが可能となった。失行症の動作学習についての報告は少ない為,本研究は介入の妥当性について検討することを目的として行った。


【方法】

本症例は70歳代女性。2015年X日左視床出血,急性水頭症発症。両側脳質ドレナージ術施行。X+26日にA病院回復期病棟へ転院。本介入はX+93~107日に実施。Brunnstrom recovery stage右上肢II,下肢III,手指I,表在・深部感覚右上下肢重度鈍麻。高次脳機能障害は失語症(特に運動性),失行症(観念運動失行,着衣失行,口部顔面失行),注意障害,記憶障害,構成障害が認められた。FIMは69/126点。端座位は手の支持なしで2分以上保持可能だが,動的バランスは不良であった。靴を履く動作は,端座位姿勢が不良のまま下方へリーチし転落しそうになる,靴に足を入れることができない等の問題点がみられた。ABAに則り,(1)ターゲット行動を「適切な方法で靴を着脱すること」とし,課題分析にて動作を①靴を拾う②右足を組む③足先を靴に入れる④ベルトをとめる⑤右足を床に下ろす,の5段階に分割した。(2)先行刺激の整備として,靴を履く動作中に適切な方法から逸脱した場合は,動作を止めて逸脱前の手順に戻し,動作手順がわからなくなった場合は口頭指示,模倣の順に手がかりを与えた。(3)後続刺激の整備として,靴を履く動作が完了した場合には,賞賛を与え,前回練習時からの改善点を提示した。介入1日目は前述の(1)~(3)を3回行い,以後は理学療法介入の度に行った。他職種にも本介入を行うよう依頼した。


【結果】

介入3日目までは手がかりとして模倣を要したが,4日目以降は手順を口頭指示すれば見守りで靴を履けるようになり,徐々に口頭指示の頻度は減少した。13,14日目には見守りのみで靴を履けた為,本介入を終了した。X+176日に再評価を行ったが,見守りで靴を履くことができた。


【結論】

失行症では行為主体が置かれた状況や時点により変化する情報の処理をするオンライン情報処理が困難となる場合があると述べられている。本症例は,靴を履く動作の際,自身の姿勢が整っていない中下方へリーチしたり,靴に足の入れ方がわからなかったりと靴と身体がどのような空間的関係におかれ,どのように関係が変化していくのかというオンライン情報処理が困難になっていると考えた。オンライン情報処理が困難となっていると考えると,動作の課題分析を行い,手順を固定することで状況の変化を処理する負荷が下がる為,手順の記憶に伴い靴を履く動作が定着できたと考えた。以上のことから,失行症を呈した症例でもABAを用いた介入を行うことで動作の学習が可能である可能性が示唆された。