第51回日本理学療法学術大会

Presentation information

一般演題ポスター

日本神経理学療法学会 一般演題ポスター
神経P10

Fri. May 27, 2016 4:30 PM - 5:30 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-NV-10-3] 身体知覚と身体イメージに着目した介入が短期間での歩行獲得につながった横紋筋融解症の1例

小柳翔太郎, 此上剛健, 浅野大喜 (日本バプテスト病院)

Keywords:知覚, 身体イメージ, 歩行

【はじめに,目的】

近年の脳機能イメージング研究により,脳の体部位再現は経験依存的に変化し,身体知覚の低下や身体イメージの変質につながることが明らかとなっている。今回,知覚の低下,身体イメージの変質が起きている歩行不能な症例に対して,身体知覚を改善させることで,身体イメージの改善,さらに歩行の再獲得につながった1例について報告する。

【方法】

症例は横紋筋融解症と診断された80代男性。平成25年頃より自宅での転倒が相次ぎ臥床生活が続いていたが,平成27年6月に歩行困難となり入院。第3病日より理学療法開始。初期評価時,MMTは下肢3,体幹3,Berg Balance Scale(BBS)は5点。Functional Independence Measure(FIM)は46点(運動項目21点)で移乗と移動は全介助を要した。足底表在感覚は重度鈍麻。運動覚は足関節底背屈運動を足趾の運動と認識するなど鈍麻あり。「昔から自分の足を全く信頼していない」という発言が特徴的であり,動作時には過剰な上肢の代償動作がみられた。さらに,身体イメージの評価として足底をA4版白紙に描写させ,その絵と実際の足長,踵部の横幅,前足部の横幅の一致率を算出したところ,右は足長49.2%,踵部30.9%,前足部35.5%,左は足長50.1%,踵部45.5%,前足部35.5%であり,実際の大きさの約半分の一致率であった。これらのことから,足部での荷重経験の減少による経験依存的な足底の知覚低下と身体イメージの変質が歩行困難の一因と考えた。また介入当初,全身状態不良のため筋力増強や動作練習の実施が困難な状態であったため,足底の知覚改善による身体イメージの再構築を目的に,足底での触圧覚による表面素材の弁別課題や硬度の弁別課題,同時に足関節の運動方向やポインティングされた身体部位を答える課題を実施。その後,座位や立位での姿勢変化と足底重心移動の関係性の学習を進めた。60分/日,5回/週で約3週間介入した。

【結果】

第23-24病日に最終評価実施。足底表在感覚は著変なかったが,表面素材や硬度の弁別,足関節運動覚は正答可能となった。足部の身体イメージ評価は,右で足長97.9%,踵部100%,前足部64.5%,左で足長84.2%,踵部93.4%,前足部66.7%となり,足長と踵部において一致率が大幅に改善した。姿勢変化に伴う重心移動を認識できるようになり,上肢代償動作は減少。BBSは31点,FIMは85点(運動項目56点),屋内歩行近位監視レベルとなった。MMTに変化はなかった。その後,第25病日に自宅退院となった。

【結論】

足部の身体知覚の低下と身体イメージの変質が歩行困難の一因と考えられた症例に対して,足底の知覚改善による身体イメージの再構築を試みた結果,屋内歩行近位監視レベルとなった。足底知覚の向上による身体イメージの改善が歩行の再獲得につながった可能性が考えられる。