第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本神経理学療法学会 一般演題ポスター
神経P12

Sat. May 28, 2016 10:30 AM - 11:30 AM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-NV-12-1] 重度の感覚性運動失調により歩行不能となった傍腫瘍性ニューロパチーの1症例に対する移乗動作獲得までの理学療法経験

谷内涼馬1, 友安青子2, 妹尾美由紀1, 田代桂一1, 林宏則1, 末田芳雅3 (1.独立行政法人国立病院機構呉医療センター・中国がんセンターリハビリテーション科, 2.独立行政法人国立病院機構東広島医療センターリハビリテーション科, 3.独立行政法人国立病院機構呉医療センター・中国がんセンター神経内科)

Keywords:傍腫瘍性ニューロパチー, 感覚性運動失調, 移乗動作

【はじめに,目的】

傍腫瘍性ニューロパチーは,悪性腫瘍に伴う病態の中で腫瘍細胞の直接浸潤や遠隔転移,代謝異常などを除外した,いわゆるremote effectによる末梢神経障害である。その中で感覚性運動失調型ニューロパチーは90%に小細胞肺癌を合併,異常感覚・深部感覚障害を中心とした多発性単ニューロパチーが四肢へ亜急性に進行し,重篤な身体障害に至る例が多い。今回,重度の感覚性運動失調により歩行・基本動作不能となったが,動作練習と環境設定により自力での移乗動作が獲得できた症例の理学療法経過について報告する。

【方法】

(症例)70歳代前半の男性。失調性歩行と手指の巧緻運動障害を主訴に,発症8日目で当院へ入院となる。入院翌日よりリハビリテーションを開始し,四肢末梢に異常感覚と重度の深部感覚障害を認め,歩行は著明なはさみ脚と体幹動揺を呈し歩行器を用いて軽介助レベルであった。発症15日目から経静脈的免疫グロブリン大量療法を施行されたが症状は亜急性に増悪し,発症30日目に歩行不能となる。その後もステロイドパルス療法・血漿交換療法を施行されたが症状は改善せず,自力での基本動作が不能となった。抗Hu抗体陽性にて傍腫瘍性ニューロパチーの確定診断後,発症65日目に胸腔鏡下右肺部分切除術・縦隔リンパ節生検術を施行。発症73日目に小細胞肺癌の確定診断後,発症93日目より小細胞肺癌に対して化学療法を開始した。

【結果】

化学療法開始後より体幹失調の緩徐な改善傾向を認め,発症103日目に端座位保持・起居動作が見守りレベルに回復した。しかし,四肢の深部感覚障害は改善せず立位保持は不能であったため,立位練習はtilt tableを使用し継続した。歩行は困難と判断し,トランスファーボードを使用した移乗動作練習を開始した。上肢は視覚によるコントロール練習を,下肢は重錘装着下でpush up時の保持練習を継続した。徐々に側方へのいざりが可能となり,発症137日目よりトランスファーボードの抜き差し練習を開始。発症173日目には,ベッド・車椅子間の移乗動作が見守りレベルとなった。動作練習と並行してkey personである妻への介助指導も適宜実施し,福祉用具の選定を行った。退院前訪問指導にて環境設定と動作指導を実施した後,発症212日目に自宅退院となった。

【結論】

重篤な身体障害に至る例が多い感覚性運動失調型ニューロパチーに対し,抗腫瘍療法と並行した反復動作練習を継続し,自力での移乗動作獲得に至った貴重な症例と考える。類似症例の報告では,早期に抗腫瘍療法が施行された例でADLの回復傾向を認めている。本症例においては転機である化学療法開始後の早期リハビリテーションに加え,症状進行期に廃用症候群を防止できた点も機能回復に寄与したと考える。予後不良とされる傍腫瘍性ニューロパチーの症例においても,抗腫瘍療法と並行した理学療法と残存機能に合わせた目標設定が肝要であると思われた。