第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本神経理学療法学会 一般演題ポスター
神経P16

Sat. May 28, 2016 4:00 PM - 5:00 PM 第11会場 (産業振興センター 2階 セミナールームA)

[P-NV-16-1] 急性期脳血管障害における転帰回帰式の開発

鹿子木知之, 荒田大輔, 吉野孝広 (医療法人社団英明会大西脳神経外科病院)

Keywords:急性期脳血管障害, 重回帰分析, 転帰予測

【はじめに,目的】

転帰先を予測する際は,日常生活活動,機能障害,依存疾患,社会的背景などを参考にすることが勧められる。しかし,その予測は,経験あるいは主観的に行われていることも少なくない。近年,NIHSSなど神経学的所見から転帰予測をする研究が進められている。転帰に関する要因は,神経学的所見だけなく,高次脳機能,動作能力,家族背景など様々な要因が存在する。今回は,データベースより入院時所見と転帰の関係を調査し,急性期転帰回帰式を開発することを目的とした。

【方法】

2013.1.1~2013.3.18に当院へ入院,データ収集可能であった130名を対象とした。対象疾患は,脳梗塞,脳出血,くも膜下出血,硬膜下血腫とした。転帰が死亡,入院前より施設入所の患者は除外した。データベース項目は,年齢,性別,同居人の有無,NIHSS,GCS,MMT,B.I,高次脳機能障害の有無(HDS-R,BIT,失行,失認)とした。それらの項目より,転帰を従属変数,その他を説明変数とし,ステップワイズ重回帰分析により転帰関数を算出した。転帰関数のカットオフ値は,2013.1.1~2015.3.31までに入院しデータ収集可能であった対象患者1668名(対象A)の転帰より,自宅,転院の2群間で,ROC曲線を算出した。対象Aにおけるカットオフ値以下の患者の分析をするために,カットオフ値以下である対象746名(対象B)の転帰を自宅退院,転院の2群間に分け,ROC曲線にてカットオフ値を算出した。

【結果】

入院初期機能から転帰予測回帰式を算出した。転帰予測回帰式は,HDS-R,足関節背屈MMT,B.Iが選択された。転帰における回帰式は,-0.094+0.02×HDS-R+0.07×足関節背屈MMT+0.002×B.Iとなった(重相関係数0.82,決定係数0.68)。対象Aにおけるカットオフ値は,0.676が妥当であった(曲線下面積90%,感度87%,特異度75%)。対象Bにおける転院のカットオフ値は,0.136となった(曲線下面積74%,感度51%,特異度85%)。結果A:転帰関数0.676以上の患者は,92%(846名/924名)が自宅退院となった。結果B:転帰関数0.136未満の患者は,86%(246名/286名)が転院となった。結果C:転帰関数0.136~0.675の患者は,48%(222名/458名)が自宅退院となった。

【結論】

転帰関数予測式に選択された変数は,在宅生活において重要視される,認知機能,筋力,動作能力であった。結果A,Bにおける約10%の予測不正答に関しては,運動麻痺が残存しているものが最も多く,次いで,神経学的所見の悪化であった。この研究結果より,結果Aは自宅退院方向,結果Bは早期より転院対応を行う。結果Cにおいては,自宅退院を約半数見込めることから,より慎重な転院先の検討が必要となることが予測される。今後は,転帰予測を臨床でどのように運用していくかが課題となる。本研究では機能的な面から予測に関する情報を,科学的に示すことはできた。