第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本神経理学療法学会 一般演題ポスター
神経P18

2016年5月28日(土) 14:50 〜 15:50 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-NV-18-3] 歩行遊脚期に対するAction Observation Therapyの治療介入について

脳卒中片麻痺患者に対するシングルケースデザイン

田津原佑介, 西本憲輔, 中口拓真, 岡泰星 (貴志川リハビリテーション病院)

キーワード:運動観察治療, 歩行遊脚期, 心的回転

【はじめに,目的】

近年,運動イメージを活用した理学療法(PT)としてMirror Neuron System(MNS)の特徴を応用した運動観察治療(Action Observation Therapy:AOT)が提案されている。先行研究では,足関節背屈に着目したAOT介入が多く,背屈筋力や歩行速度の向上が報告されている(渕上,2015)。しかし,足関節背屈以外の下肢AOT効果は明らかではない。またAOTと運動イメージ能力との関連性も明確ではない。本研究では,脳卒中患者に対し,歩行遊脚期に必要な股関節屈曲,膝関節伸展,足関節背屈のAOTを介入することで,各筋力や歩行能力,運動イメージ能力に対する効果を検証した。


【方法】

対象は左視床出血により,回復期病棟に入院した右片麻痺を呈す39歳の男性であった。BRSTが下肢stageIIIであるが感覚麻痺は軽度であり,著明なROM制限は右足関節背屈ROM0°のみであった。介入初期は4点杖歩行にて近位見守りであった。本研究はABデザインを用い,A:ベースライン(通常PTを10日間),B:AOT介入期(通常PT+AOTを30日間)の計40日間とした。AOT介入期では,膝関節伸展AOT(10日間),股関節屈曲AOT(10日間),足関節背屈AOT(10日間)の順に実施し,10日間同一のAOTを実施した。AOT動画は健常女性の運動を編集したものであり,PCにて患者主動の自主練習として1日につき5分×3セットを導入した。評価項目はメインアウトカムとして5m歩行速度,サブアウトカムとして麻痺側股関節屈曲,膝関節伸展,足関節背屈のHand Held Dynamometer(HHD:Nm/kg),運動イメージ能力評価に足部心的回転(Mental Rotation:MR)の反応時間を計測した。各評価は10日毎に実施し,計5回実施した。


【結果】

結果をA期:初期→10日後,B期:①膝伸展AOT期,②股関節屈曲AOT期,③足関節背屈AOT期として示す。5m歩行速度はA期:113→94秒,B期:①79秒②65秒③43秒であり,4点杖歩行自立となった。HHDでは,膝関節伸展がA期0.05→0.07Nm/kg:,B期:①0.28Nm/kg②0.36Nm/kg③0.37Nm/kg,股関節屈曲がA期:0.28→0.34Nm/kg,B期:①0.44Nm/kg②0.67Nm/kg③0.86Nm/kg,足関節背屈がA期:0.05→0.08Nm/kg,B期:①0.12Nm/kg②0.10Nm/kg③0.26Nm/kgの改善を認めた。MRの反応時間は,A期:110→104秒,B期:①80.6秒②82秒③56.3秒であった。以上より,A期よりもB期における改善率が高い傾向となった。


【結論】

結果より,B期ではAOT課題に応じたHHDの向上を認め,5m歩行速度に改善を認めた。その要因は,各AOTでは5分×3セット/1日を実施することで,450回以上もの運動を実施するため,運動量の増加が影響したと考えられる。また,MRの反応時間が短縮しており,運動イメージ能力の向上も考えられる。MRの反応時間と運動前野の活性化に相関があること(菊池,2008),AOTで運動前野が活性化すること(Ertelt D, 2007)より,AOTが脳機能の向上に関与したことが推察される。MNSには体部位局在性があることからも,AOTでの股関節屈曲・膝関節伸展・足関節背屈の運動課題は歩行の遊脚機能の改善に効果的であることが考えられる。