[P-NV-21-5] 脳卒中片麻痺患者の咬合が歩行に及ぼす影響について
Keywords:咬合, 歩行, 片麻痺
【はじめに,目的】
臨床において,無歯顎者や多数歯欠損者,不適合補綴物装着者といった,咬合が不十分であると疑われる患者は安定した歩行獲得が困難であることを経験する。石井らは,健常者において咬合は咀嚼,発声のみならず,全身における運動や姿勢制御機構においても影響を与える可能性があると報告し,高橋らは,咬合の回復が身体平衡機能を向上させ,歩行安定性に影響を及ぼすと示唆している。しかし,脳卒中片麻痺患者(以下,片麻痺者)において咬合と歩行について検討した報告は少ない。よって,本研究の目的は片麻痺者を対象とし,咬合が片麻痺者の歩行にどのような影響を及ぼすかについて明らかにすることとした。
【方法】
対象は当院回復期リハビリテーション病院に入院した,初発の片麻痺者13名(年齢:66.3±11.6歳,性別:女性6名・男性7名,病型:脳梗塞7名・脳出血6名,麻痺側:右側8名・左側5名,身長:157.6±8.5cm,発症後病日:100.8±69.5日),下肢Brunnstrom Stageは,II1名,III1名,IV5名,V5名,VI1名であった。歩行能力は,Functional Ambulation Classificationが3点以上に該当する者とした。また,正常歯,義歯問わず臼歯部咬合が行えており,咬合紙を使用した咬合紙法にて咬合部位に色素が付着した者を対象とした。使用機器はインターリハ社製ゼブリス高機能型圧分布測定システム(以下,WinFDM)を使用し,対象者に対してWinFDM上を至適速度にて歩行を実施。歩行時における顎位の条件は,下顎安静位と咬合部位に厚さ3mmのマウスガードシート(山八歯材工業株式会社製)を意識して噛んでいる状態(以下,習慣性咬合位歩行)の2条件とした。各条件を3回実施し,各値の平均値を採用。歩行の分析項目は歩幅,ストライド,ケーデンス,歩行速度,1歩行周期における歩行速度変動率,そして,足圧中心(以下,COP)軌跡交差点の前後変動幅と左右変動幅とした。なお,歩幅,ストライド,COP軌跡交差点の前後変動幅,左右変動幅は,身長により正規化した。各パラメーターは,それぞれWilcoxonの符号付順位和検定を用いて2群間を比較し有意水準は5%未満とした。
【結果】
習慣性咬合位歩行においては非麻痺側の歩幅(p<0.01),ストライド(p<0.01),ケーデンス(p<0.01),歩行速度(p<0.01)の有意な増加及び,歩行速度変動率(p<0.01),COP軌跡交差点の前後変動幅(p<0.01),左右変動幅(p<0.01)の有意な低下が認められた。
【結論】
本研究の知見から,咬合は姿勢制御の安定に寄与する可能性があり,片麻痺者の歩行パラメーター向上が期待され,歩行時における変動を軽減させる一助となる可能性がある。
臨床において,無歯顎者や多数歯欠損者,不適合補綴物装着者といった,咬合が不十分であると疑われる患者は安定した歩行獲得が困難であることを経験する。石井らは,健常者において咬合は咀嚼,発声のみならず,全身における運動や姿勢制御機構においても影響を与える可能性があると報告し,高橋らは,咬合の回復が身体平衡機能を向上させ,歩行安定性に影響を及ぼすと示唆している。しかし,脳卒中片麻痺患者(以下,片麻痺者)において咬合と歩行について検討した報告は少ない。よって,本研究の目的は片麻痺者を対象とし,咬合が片麻痺者の歩行にどのような影響を及ぼすかについて明らかにすることとした。
【方法】
対象は当院回復期リハビリテーション病院に入院した,初発の片麻痺者13名(年齢:66.3±11.6歳,性別:女性6名・男性7名,病型:脳梗塞7名・脳出血6名,麻痺側:右側8名・左側5名,身長:157.6±8.5cm,発症後病日:100.8±69.5日),下肢Brunnstrom Stageは,II1名,III1名,IV5名,V5名,VI1名であった。歩行能力は,Functional Ambulation Classificationが3点以上に該当する者とした。また,正常歯,義歯問わず臼歯部咬合が行えており,咬合紙を使用した咬合紙法にて咬合部位に色素が付着した者を対象とした。使用機器はインターリハ社製ゼブリス高機能型圧分布測定システム(以下,WinFDM)を使用し,対象者に対してWinFDM上を至適速度にて歩行を実施。歩行時における顎位の条件は,下顎安静位と咬合部位に厚さ3mmのマウスガードシート(山八歯材工業株式会社製)を意識して噛んでいる状態(以下,習慣性咬合位歩行)の2条件とした。各条件を3回実施し,各値の平均値を採用。歩行の分析項目は歩幅,ストライド,ケーデンス,歩行速度,1歩行周期における歩行速度変動率,そして,足圧中心(以下,COP)軌跡交差点の前後変動幅と左右変動幅とした。なお,歩幅,ストライド,COP軌跡交差点の前後変動幅,左右変動幅は,身長により正規化した。各パラメーターは,それぞれWilcoxonの符号付順位和検定を用いて2群間を比較し有意水準は5%未満とした。
【結果】
習慣性咬合位歩行においては非麻痺側の歩幅(p<0.01),ストライド(p<0.01),ケーデンス(p<0.01),歩行速度(p<0.01)の有意な増加及び,歩行速度変動率(p<0.01),COP軌跡交差点の前後変動幅(p<0.01),左右変動幅(p<0.01)の有意な低下が認められた。
【結論】
本研究の知見から,咬合は姿勢制御の安定に寄与する可能性があり,片麻痺者の歩行パラメーター向上が期待され,歩行時における変動を軽減させる一助となる可能性がある。