[P-NV-22-3] 多発性脳梗塞後にせん妄を認めた症例に対する理学療法の経験
キーワード:急性期脳卒中, せん妄, 離床
【はじめに,目的】
せん妄は急性期脳梗塞患者の41%に出現する精神症状の一つで,機能予後を不良にすると報告されている。特に過活動せん妄に対するリハビリテーションは困難とされ,理学療法(以下PT)の効果について言及した報告は少ない。今回,多発性脳梗塞後に過活動型のせん妄を認めた症例へのPTの実施が,鎮静薬の減量と生活リズムの定着に寄与する経験をした。せん妄症状を認めた24病日から安定して離床が可能となった51病日までのPTアプローチに,考察を加えて報告する。
【方法】
[対象]60歳代,男性。診断名は後方循環系の急性多発性脳梗塞。発症当日よりPT開始。気管切開による呼吸器管理のためICUに入室し鎮静管理を開始。[せん妄症状の経過]鎮静管理を解除し一般病棟へ転室後,せん妄症状が出現。ライン類の自己抜去や起き上がり・手膝位を繰り返し,制止によりさらに興奮,暴力行為も認めた。このため再度ICUでの鎮静管理が必要となり,以降,鎮静薬減量での一般病棟管理と鎮静管理でのICU入室を繰り返した。[関連職種間での方針検討]鎮静管理からの離脱のため,カンファレンスを実施した。鎮静時間の短縮に向けて,せん妄の改善に有効とされる睡眠・覚醒の生活リズム定着のために離床を進め,その際に混乱させない対応の統一化を図る方針となった。[PT評価]せん妄が出現した24病日のPT評価はGCS9点,視覚障害が疑われ,気管切開後のため発語困難あり,軽度の運動失調を認めた。せん妄の評価であるICDSCは8/8点と最重度だが,PT場面では本人が動きたい時には制止せず,混乱や危険動作に配慮しながら身体活動を促すと暴力行為や精神的興奮は少ないことが観察された。[PTアプローチ]看護師と協力し,鎮静の解除時間帯に定時介入した。プログラムは車椅子乗車,起立・歩行練習を症例の状態にあわせて実施。意識障害・視覚障害による混乱や安全面に対して,動作前のオリエンテーションや,手探りできる環境の整備,動作中は手順を細く分けて次に行う事だけを簡潔に提示するという点に配慮した。また看護師と,病棟での安全な動作方法や練習場所,介助方法を共有して病棟生活の中で本人が動きたいときに看護師と起立・歩行練習が可能となるよう調整した。
【結果】
せん妄が出現した24病日は持続的な鎮静管理を9時から17時のうち8時間必要としていたが,51病日は3時間と短縮,さらにその頻度も減少した。生活場面では車椅子乗車,起立・歩行練習により安定して離床可能となり,病棟での練習中はライン類の自己抜去や暴力行為が減少した。
【結論】
過活動せん妄に対するPTは安全管理や意思疎通が困難といった点で難渋するが,障害像や動作能力等の評価に基づいて,混乱させない声かけや動作指示を模索し,安全な介助や運動方法を提案すること,さらに関連職種と連携して離床をきっかけに生活リズムを再構築することが理学療法士の重要な役割と考えられた。
せん妄は急性期脳梗塞患者の41%に出現する精神症状の一つで,機能予後を不良にすると報告されている。特に過活動せん妄に対するリハビリテーションは困難とされ,理学療法(以下PT)の効果について言及した報告は少ない。今回,多発性脳梗塞後に過活動型のせん妄を認めた症例へのPTの実施が,鎮静薬の減量と生活リズムの定着に寄与する経験をした。せん妄症状を認めた24病日から安定して離床が可能となった51病日までのPTアプローチに,考察を加えて報告する。
【方法】
[対象]60歳代,男性。診断名は後方循環系の急性多発性脳梗塞。発症当日よりPT開始。気管切開による呼吸器管理のためICUに入室し鎮静管理を開始。[せん妄症状の経過]鎮静管理を解除し一般病棟へ転室後,せん妄症状が出現。ライン類の自己抜去や起き上がり・手膝位を繰り返し,制止によりさらに興奮,暴力行為も認めた。このため再度ICUでの鎮静管理が必要となり,以降,鎮静薬減量での一般病棟管理と鎮静管理でのICU入室を繰り返した。[関連職種間での方針検討]鎮静管理からの離脱のため,カンファレンスを実施した。鎮静時間の短縮に向けて,せん妄の改善に有効とされる睡眠・覚醒の生活リズム定着のために離床を進め,その際に混乱させない対応の統一化を図る方針となった。[PT評価]せん妄が出現した24病日のPT評価はGCS9点,視覚障害が疑われ,気管切開後のため発語困難あり,軽度の運動失調を認めた。せん妄の評価であるICDSCは8/8点と最重度だが,PT場面では本人が動きたい時には制止せず,混乱や危険動作に配慮しながら身体活動を促すと暴力行為や精神的興奮は少ないことが観察された。[PTアプローチ]看護師と協力し,鎮静の解除時間帯に定時介入した。プログラムは車椅子乗車,起立・歩行練習を症例の状態にあわせて実施。意識障害・視覚障害による混乱や安全面に対して,動作前のオリエンテーションや,手探りできる環境の整備,動作中は手順を細く分けて次に行う事だけを簡潔に提示するという点に配慮した。また看護師と,病棟での安全な動作方法や練習場所,介助方法を共有して病棟生活の中で本人が動きたいときに看護師と起立・歩行練習が可能となるよう調整した。
【結果】
せん妄が出現した24病日は持続的な鎮静管理を9時から17時のうち8時間必要としていたが,51病日は3時間と短縮,さらにその頻度も減少した。生活場面では車椅子乗車,起立・歩行練習により安定して離床可能となり,病棟での練習中はライン類の自己抜去や暴力行為が減少した。
【結論】
過活動せん妄に対するPTは安全管理や意思疎通が困難といった点で難渋するが,障害像や動作能力等の評価に基づいて,混乱させない声かけや動作指示を模索し,安全な介助や運動方法を提案すること,さらに関連職種と連携して離床をきっかけに生活リズムを再構築することが理学療法士の重要な役割と考えられた。