[P-NV-27-1] 症例報告:脳卒中後遷延性失立症患者における側方突進現象とSubjective postural verticalの関連性の検証
キーワード:脳卒中後失立症, Subjective postural vertical, 体性感覚入力
【はじめに,目的】
脳卒中後の失立症は,視床の後外側核の損傷で生じることが多く,「筋力などが十分であるのにも関わらず,立位や歩行が困難である症状」とされており,発症後数日で改善すると報告されている(Lee, et al., 2005)。今回,右視床出血(後外側核)後,8週間,起立・歩行訓練を継続したにもかかわらず,病巣反対側へ倒れる傾向(側方突進現象)が残存した症例を経験した。Pusher症候群などの病巣反対側へ倒れる症状を呈する患者では,自己の身体方向を重力(垂直)方向に定位するSubjective postural vertical(以下,SPV)が偏倚(bias)していたと報告されている(Parennou, et al., 2008)。本症例においても,SPVにbiasが見られたことから,この遷延した失立症状はSPV biasに起因しているという仮説を立てた。そこで,立位訓練の介入前後でSPV bias(病巣同側・反対側)と立位保持能力を評価することで,SPV biasと失立症との因果関係と,失立症に対する体性感覚入力を付加した身体傾斜トレーニングの介入効果を明らかにすることを目的とした。
【方法】
一般的な起立・歩行訓練や作業療法のみを行う対照期(1週)後,閉眼で非麻痺側上肢や体幹からの体性感覚の入力量を手がかりに自己身体傾斜方向を調整させるトレーニングを追加した介入期(1週)を設定した。対照期の前・後,介入期の後で機能障害・ADL,SPV,立位保持時間をそれぞれ評価した。
【結果】
病巣同側のSPV biasは対照期後で改善した(前:2.7±0.3°,後:-0.3±0.3°)が,病巣反対側のSPV biasは対照期では改善せず,介入期後でのみ改善した(対照期前:-3.0±0.4°,対照期後:-2.7±0.4°,介入期後:-0.8±0.4°)。また,立位保持時間(開眼・上肢支持なし条件)は,介入期でのみ大きく改善した(対照期前・後:0秒,介入期後:34秒)。さらにADL(車椅子・ベッド,トイレ移乗項目)は,介入期前後でのみ改善した(各4点⇒5点)。なお,全体を通して機能障害に大きな変化は見られなかった。
【結論】
介入期後において,病巣反対側におけるSPV biasの改善に伴い,立位保持能力が改善した。この結果から,病巣反対側のSPV biasは,脳卒中後遷延性失立症における姿勢制御障害の機能的なメカニズムを構成する一要因であることが示唆された。さらに,脳卒中後遍延性失立症例のSPV biasの改善には,体性感覚入力を付加した身体傾斜トレーニングが有効であることが示唆された。
脳卒中後の失立症は,視床の後外側核の損傷で生じることが多く,「筋力などが十分であるのにも関わらず,立位や歩行が困難である症状」とされており,発症後数日で改善すると報告されている(Lee, et al., 2005)。今回,右視床出血(後外側核)後,8週間,起立・歩行訓練を継続したにもかかわらず,病巣反対側へ倒れる傾向(側方突進現象)が残存した症例を経験した。Pusher症候群などの病巣反対側へ倒れる症状を呈する患者では,自己の身体方向を重力(垂直)方向に定位するSubjective postural vertical(以下,SPV)が偏倚(bias)していたと報告されている(Parennou, et al., 2008)。本症例においても,SPVにbiasが見られたことから,この遷延した失立症状はSPV biasに起因しているという仮説を立てた。そこで,立位訓練の介入前後でSPV bias(病巣同側・反対側)と立位保持能力を評価することで,SPV biasと失立症との因果関係と,失立症に対する体性感覚入力を付加した身体傾斜トレーニングの介入効果を明らかにすることを目的とした。
【方法】
一般的な起立・歩行訓練や作業療法のみを行う対照期(1週)後,閉眼で非麻痺側上肢や体幹からの体性感覚の入力量を手がかりに自己身体傾斜方向を調整させるトレーニングを追加した介入期(1週)を設定した。対照期の前・後,介入期の後で機能障害・ADL,SPV,立位保持時間をそれぞれ評価した。
【結果】
病巣同側のSPV biasは対照期後で改善した(前:2.7±0.3°,後:-0.3±0.3°)が,病巣反対側のSPV biasは対照期では改善せず,介入期後でのみ改善した(対照期前:-3.0±0.4°,対照期後:-2.7±0.4°,介入期後:-0.8±0.4°)。また,立位保持時間(開眼・上肢支持なし条件)は,介入期でのみ大きく改善した(対照期前・後:0秒,介入期後:34秒)。さらにADL(車椅子・ベッド,トイレ移乗項目)は,介入期前後でのみ改善した(各4点⇒5点)。なお,全体を通して機能障害に大きな変化は見られなかった。
【結論】
介入期後において,病巣反対側におけるSPV biasの改善に伴い,立位保持能力が改善した。この結果から,病巣反対側のSPV biasは,脳卒中後遷延性失立症における姿勢制御障害の機能的なメカニズムを構成する一要因であることが示唆された。さらに,脳卒中後遍延性失立症例のSPV biasの改善には,体性感覚入力を付加した身体傾斜トレーニングが有効であることが示唆された。