第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本神経理学療法学会 一般演題ポスター
神経P27

2016年5月29日(日) 11:10 〜 12:10 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-NV-27-5] 脳血管障害患者における映像傾斜と体外離脱体験が垂直認知能力に及ぼす影響

中村学1,2, 網本和2, 遠藤敦士1,2 (1.竹の塚脳神経リハビリテーション病院, 2.首都大学東京人間健康科学研究科)

キーワード:脳血管障害, 体外離脱体験, 垂直認知能力

【はじめに】ヒトの垂直認知能力は姿勢制御において重要な役割を果たす。先行研究では脳血管障害(CVA)後の半側空間無視症例の偏倚した主観的視覚垂直(以下,SVV)が頭部右傾斜により正中に近づいたと報告している(Funk, 2010)。一方で近年,映像観賞用機器としてヘッドマウントディスプレイ(以下HMD)が市販されており,これを利用し身体を傾斜させずに映像のみを傾斜させることができる。またディスプレイ上に対象者の後ろ姿を映し映像と同期した触覚刺激を与えることで,体外離脱体験(Out-of-body experience;以下OBE)を利用することもでき,OBE生起時には映像で見ている身体に自己意識が移る錯覚を生じる(Ehrsson, 2007,Lenggenhager, 2007)。映像のみの傾斜による視覚操作やOBEによる錯覚がさらに姿勢反応に影響を与える可能性があるため,本研究はCVA症例を対象に映像傾斜とOBEが垂直認知能力に及ぼす影響を検討した。

【方法】対象はCVA後の左片麻痺症例9名(男性5名,女性4名)とした。ベースラインとなるSVVと主観的身体垂直(以下,SPV)を測定し,映像傾斜条件とOBE条件を各々実施した後に再度SVV・SPVを測定した。対象者は傾斜可能な測定台に端座位(SVV:開眼,SPV:閉眼)となり,測定台を前額面上で傾斜した位置から垂直方向へ回転させ主観的に垂直と感じた角度を記録した。SVV・SPV測定は左右傾斜開始方向・初期傾斜角度がpseudo-randomとなるよう無作為に計8回ずつ測定した。映像傾斜条件はHMDを装着して左に30°傾斜した映像を3分注視した。OBE条件はHMDに対象者の後ろ姿を映した映像を左に30°傾斜して注視し,対象者の右肩峰に2Hzの触覚刺激を与えた。統計処理はベースライン・各条件後と傾斜開始方向を2要因とした反復測定の二元配置分散分析を実施し,SVV・SPVに差があるか多重比較としてBonferroni法を実施した。統計処理はIBM SPSSver.22を使用し,有意水準は5%とした。

【結果】反復測定の二元配置分散分析の結果,SVVに有意な交互作用を認めた(p<0.05)。事後検定の結果,ベースライン後(左:-1.8°±2.5°,右:1.6°±2.6°),映像傾斜後(左:-1.8°±4.9°,右:1.5°±2.7°)とも測定台の傾斜開始方向へ偏倚を認め(p<0.05),OBE条件後は測定台の傾斜開始方向へより大きな偏倚を認める傾向であった(左:-3.4°±3.6°,右:2.8°±3.6°)。

【結論】OBE中に映像傾斜に触覚刺激を付与したことで映像傾斜方向への自己身体の傾斜感覚が生じ,麻痺側からの荷重感覚情報と垂直認知能力に差異が生じたことでOBE条件後の垂直認知が麻痺側方向へ偏倚が増加したと考えられる。また非麻痺側では正常な体性感覚に傾斜感覚が付与され,アウベルト効果が生じたことで垂直認知が非麻痺側へ偏倚したと考えた。本研究結果から,CVA患者の垂直認知能力に対する視覚情報の操作は体性感覚情報を同期させた方が効果は大きく,傾斜映像は垂直認知能力を操作できる可能性がある。