[P-NV-28-2] 慢性期脳卒中後片麻痺患者に対し,ボツリヌス療法後に反復性経頭蓋磁気刺激と集中的理学療法を試みた一症例
キーワード:脳卒中片麻痺, ボツリヌス療法, 反復性経頭蓋磁気刺激
【はじめに,目的】
山田ら(2013)は,慢性期脳卒中後片麻痺患者に対して低頻度の反復性経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation,以下,rTMS)と集中的作業療法に先立って,A型ボツリヌス毒素(Botulinum Toxin Type A,以下,BoNT-A)療法を報告しているが,下肢治療では散見している。そこで,慢性期脳卒中後片麻痺患者の下肢に対し,BoNT-A後に低頻度のrTMSと集中的理学療法を試み,その結果を報告する。
【方法】
症例は右放線冠脳梗塞による左片麻痺を呈し,発病から約3年を経過した70歳代の女性。BoNT-A前評価は,Brunnstrom recovery stageが左上肢5,手指5,下肢4。左下肢の筋緊張はmodified Ashworth scale(以下,MAS)で下腿三頭筋1,後脛骨筋1,長趾屈筋1であった。関節可動域は左足関節背屈10°以外はほぼ正常。Functional reach test(以下,FRT)は22.4cm,Berg balance scale(以下,BBS)が44点。3m timed up and go test(以下,TUG)は36.0秒であった。杖歩行(短下肢装具使用)は修正自立であり,10m最速歩行所要時間(以下,歩行時間)は38.3秒。装具非装着下での歩容は左遊脚期から初期接地期で足部内反を認めた。BoNT-AはrTMS10日前に,左後脛骨筋25単位及び長趾屈筋25単位施行した。また,rTMSは施行前にfunctional MRIで健側運動野の足関節背屈支配領域をマッピングした。rTMS装置はMagVenture社製MagPro R30を使用し,運動閾値の90%強度で,1Hz,20分間(1200発)の低頻度rTMS及び60分間の個別理学療法(麻痺側下肢関節可動域運動,立ち上がり動作練習,トレッドミル等による歩行練習)を1セッションとし,1日2セッション実施。15日間の入院期間中に計21セッション行った。
【結果】
rTMS前の入院時評価は,左下腿三頭筋,後脛骨筋,長趾屈筋の筋緊張はMASで0。FRTは23.3cm,TUGが33.2秒,歩行時間は39.2秒であった。装具非装着下の歩容でも足部内反が軽減した。低頻度rTMSと集中的理学療法を完遂した。退院時評価は,FRTは26.0cm,BBSが46点。TUGは27.3秒,歩行時間は29.8秒へ改善した。それ以外は変化を認めなかった。
【結論】
原ら(2015)は,痙縮を認める場合にはrTMSを施行する前にBoNT-Aを行い,リハビリテーションの阻害因子を取り除く必要性を述べている。下肢rTMSは当院上肢治療(15日間の低頻度rTMSと集中的作業療法)に準じて施行した。また,一次運動野下肢領域は解剖学的に深部かつ左右が隣接しているため,当院は大脳半球運動野下肢領域へのrTMSにTMS Navigation Systemを用いた。脳卒中ガイドライン2015では下肢麻痺への機能的電気刺激やトレッドミル歩行練習等が歩行能力向上に有効と示されている。結果的には筋緊張,FRT,歩行時間等に改善を認めたが,下肢ステージの改善には至らなかった。今回,rTMSに先立ってBoNT-Aを施行したことは本症例の治療効果を高めたと推察する。今後は症例数を増やし,対象群との比較検討が必要と考える。
山田ら(2013)は,慢性期脳卒中後片麻痺患者に対して低頻度の反復性経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation,以下,rTMS)と集中的作業療法に先立って,A型ボツリヌス毒素(Botulinum Toxin Type A,以下,BoNT-A)療法を報告しているが,下肢治療では散見している。そこで,慢性期脳卒中後片麻痺患者の下肢に対し,BoNT-A後に低頻度のrTMSと集中的理学療法を試み,その結果を報告する。
【方法】
症例は右放線冠脳梗塞による左片麻痺を呈し,発病から約3年を経過した70歳代の女性。BoNT-A前評価は,Brunnstrom recovery stageが左上肢5,手指5,下肢4。左下肢の筋緊張はmodified Ashworth scale(以下,MAS)で下腿三頭筋1,後脛骨筋1,長趾屈筋1であった。関節可動域は左足関節背屈10°以外はほぼ正常。Functional reach test(以下,FRT)は22.4cm,Berg balance scale(以下,BBS)が44点。3m timed up and go test(以下,TUG)は36.0秒であった。杖歩行(短下肢装具使用)は修正自立であり,10m最速歩行所要時間(以下,歩行時間)は38.3秒。装具非装着下での歩容は左遊脚期から初期接地期で足部内反を認めた。BoNT-AはrTMS10日前に,左後脛骨筋25単位及び長趾屈筋25単位施行した。また,rTMSは施行前にfunctional MRIで健側運動野の足関節背屈支配領域をマッピングした。rTMS装置はMagVenture社製MagPro R30を使用し,運動閾値の90%強度で,1Hz,20分間(1200発)の低頻度rTMS及び60分間の個別理学療法(麻痺側下肢関節可動域運動,立ち上がり動作練習,トレッドミル等による歩行練習)を1セッションとし,1日2セッション実施。15日間の入院期間中に計21セッション行った。
【結果】
rTMS前の入院時評価は,左下腿三頭筋,後脛骨筋,長趾屈筋の筋緊張はMASで0。FRTは23.3cm,TUGが33.2秒,歩行時間は39.2秒であった。装具非装着下の歩容でも足部内反が軽減した。低頻度rTMSと集中的理学療法を完遂した。退院時評価は,FRTは26.0cm,BBSが46点。TUGは27.3秒,歩行時間は29.8秒へ改善した。それ以外は変化を認めなかった。
【結論】
原ら(2015)は,痙縮を認める場合にはrTMSを施行する前にBoNT-Aを行い,リハビリテーションの阻害因子を取り除く必要性を述べている。下肢rTMSは当院上肢治療(15日間の低頻度rTMSと集中的作業療法)に準じて施行した。また,一次運動野下肢領域は解剖学的に深部かつ左右が隣接しているため,当院は大脳半球運動野下肢領域へのrTMSにTMS Navigation Systemを用いた。脳卒中ガイドライン2015では下肢麻痺への機能的電気刺激やトレッドミル歩行練習等が歩行能力向上に有効と示されている。結果的には筋緊張,FRT,歩行時間等に改善を認めたが,下肢ステージの改善には至らなかった。今回,rTMSに先立ってBoNT-Aを施行したことは本症例の治療効果を高めたと推察する。今後は症例数を増やし,対象群との比較検討が必要と考える。