第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本神経理学療法学会 一般演題ポスター
神経P30

2016年5月29日(日) 11:10 〜 12:10 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-NV-30-1] 姿勢制御における足部感覚貢献度の向上により歩行能力改善を示した脳卒中患者の1症例

澳昂佑1, 木村大輔2, 松木明好3, 井上純爾1, 服部暁穂4, 中野英樹5, 川原勲1 (1.阪奈中央病院, 2.川崎医療福祉大学, 3.四條畷学園大学, 4.大阪府済生会中津病院, 5.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター)

キーワード:感覚の重みづけ, 姿勢制御, 歩行対称性

【はじめに,目的】脳卒中患者は,明らかな感覚障害がないにもかかわらずバランス障害をきたすことがあり,原因の一つに足部体性感覚,前庭覚,視覚の感覚統合障害がある。これは,入力される感覚情報の処理で,一部の感覚情報に誤って依存度を高めてしまう感覚の重みづけ(sensory weighting:SW)の障害であることが報告されている。しかし,脳梗塞後のSW,運動機能の変化に着目した症例報告はない。我々は,脳梗塞患者1症例に対して感覚の再重みづけトレーニング(sensory reweighting training:SRWT)を4週間実施し,SW,運動機能の変化を検証したので報告する。

【方法】対象は脳梗塞発症1ヵ月経過した70歳代の女性とし,病巣は左放線冠であった。SIASは,握力を除き,満点であった。認知症,高次脳機能障害,整形外科疾患はなかった。介入前後に立位におけるSWを評価するため,Stephen R,1994らの方法を参考にフォースプレート(アニマ社製MG-100)を使用し,視覚,前庭,足底感覚の感覚貢献度指数を算出した。値が高いものほど,立位制御への貢献度が高いことを示す。転倒リスク評価としてFBS,TUGを評価した。屋外歩行の実用性を評価するため,10m歩行テストを評価した。先行研究を参考にカットオフ値(FBS:45点以下,TUG:14.0秒以上,10m歩行テスト:11.6秒以上)を設定した。歩行立脚時間の左右対称性を評価するsymmetry index(SI)を算出した。SIは0に近いほど左右対称であることを示す。各評価は介入前後を比較した。SRWTは対象者にディジョックボード(酒井医療株式会社製SPR-2600)上にて閉眼で右片脚立位を取らせ,セラピストは約1Hzの頻度でディジョックボードを前後左右ランダムに動揺させ,転倒に留意し実施した。1セッションを2分,1日に20回,週5日,4週間実施した。

【結果】感覚貢献度指数は,視覚が-15%から31.4%,体性感覚-40%から44.4%,前庭覚が155%から24.2%となった。FBSは42点から47点に,TUGは17.8秒から12秒に,10m歩行テストは13.7秒から11.7秒に改善した。SIは介入後に-25から-2となった。

【結論】下肢の感覚障害や運動麻痺がないにもかかわらず,介入前のFBS,TUGは転倒危険を示した。歩行はSIより左右非対称となり,右下肢立脚期の短縮した歩行を示し,10m歩行の結果,非実用性を示した。感覚貢献度指数は同年代の正常値と比較し,前庭覚が異常な増加を示した。これは立位姿勢制御において,前庭覚に依存した結果,バランス能力,歩行能力が低下していることを示唆する。介入後の感覚貢献度指数は正常に近づき,FBS,TUG,非転倒危険値を示し,10m歩行テストは屋外歩行自立に近い値を示した。このことはSRWTによってSWの正常化を誘導し,結果として立位バランス,歩行能力改善に寄与した可能性を示唆する。限界点として1症例の報告であるため,自然回復などの影響を精査できない。しかし,脳卒中患者に対するSWへの着目する理学療法の重要性を示した。