第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本神経理学療法学会 一般演題ポスター
神経P30

2016年5月29日(日) 11:10 〜 12:10 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-NV-30-3] 中枢神経疾患由来の手指拘縮に対する高反発クッショングリップの使用経験

濱川みちる1, 石田和人2, 白木基之3,4, 辺土名まゆみ1, 安里克己1, 仲程真吾1, 山城貴大1, 平山陽介1, 秋月亮二1, 高良翔太1, 阿嘉太志1, 濱崎直人1, 宮里好一1, 西野仁雄3 (1.沖縄リハビリテーションセンター病院, 2.名古屋大学大学院医学系研究科, 3.特定非営利活動法人健康な脳づくり, 4.株式会社ホワイトサンズ)

キーワード:ミラクルグリップ, 拘縮, ROM

【はじめに】中枢神経疾患由来の手指拘縮は,関節可動域拡大運動やストレッチなどを継続しても改善困難な症例が多く,進行すると手指の衛生不良や介護負担増などの負の連鎖を招く。今回,拘縮手改善のために開発された高反発クッショングリップ「ミラクルグリップ」(ホワイトサンズ社製)を回復期病棟入院患者・進行性疾患患者に試用し,良好な成績が得られたので報告する。

【方法】脳血管疾患あるいは進行性神経疾患にて当院に入院または通院している者のうち,手指拘縮を認める4例を対象とした。グリップ着用前の状態として,症例Aは脳出血で入院(発症後6カ月),右上肢の拘縮と他動運動時痛,手指不衛生を認めた。症例Bは脳塞栓症で入院(発症後4カ月),左上肢の拘縮・他動運動時痛を認めた。症例Cは脳出血で入院(発症後4カ月),右上肢の痙性麻痺,手指炎症,他動運動時痛,白癬による悪臭・蒸れを認めた。症例Dは多系統萎縮症で通院(発症後16年),定期的なボトックス治療とPT・OTを継続していたが,両手指・手関節を中心に拘縮とかぶれを認めた。対象者には,通常の治療と併用して,ミラクルグリップのモニターとして拘縮手に1カ月間,24時間継続して着用していただいた。評価には,着用期間中の表情や手指衛生に加え,着用前・着用2週間後・1カ月後の拘縮側上肢の関節可動域(以下,ROM)を記録した。

【結果】症例Aは着用前,痛みのため離床や理学療法も長期間拒否していたが,着用2日後より他動運動時の抵抗が軽減し理学療法も受け入れるようになった。6日後には爪切りや離床も可能となった。症例Bは着用2週間後に手・肘関節のROM拡大,1カ月後には肩関節のROM拡大が得られ,苦痛様表情も軽減した。症例Cは内服治療との併用にて,着用7日後には右上肢の筋緊張が全体的に軽減し,1カ月後には熱感や疼痛,悪臭の消失が得られた。症例Dは着用7日後より他動運動時の抵抗軽減,1カ月後にはかぶれ消失,ROM拡大が得られた。

【結論】今回,手指拘縮患者に対しミラクルグリップを1カ月間使用し,拘縮の軽減,表情や手指衛生の改善が得られた。西野らはミラクルグリップの効果として,クッションの強い反発力と圧力のランダム性が,上肢全体・顔面の血流を増加させ,脳血流も増加することを示している。また筋電図では,上肢屈筋群だけでなく伸筋群の筋活動量も増加すると報告している。今回のROMや表情の改善も同様の作用によるものと考える。また手指衛生の改善は,グリップのもつ高い通気性・抗菌消臭作用が拘縮改善と相まってもたらした効果と考えられる。本研究により,回復期病棟入院患者や進行性疾患患者という,病期により症状が変化する患者においても良好な成績が得られることが分かった。しかしモニター試用という条件上,シングルケースデザインを導入できなかったため,効果の持続性についてはさらなる検証が必要である。今後,ミラクルグリップが治療手段の一つとして病期にかかわらず広く利用され,効果を発揮することが大きく期待される。