第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本呼吸理学療法学会 一般演題ポスター
呼吸P06

Sat. May 28, 2016 11:40 AM - 12:40 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-RS-06-2] 長座位における腹壁筋への電気刺激療法が呼気流速に与える影響

奥野裕佳子1, 瀬和瑶子2, 大瀬寛高3, 冨田和秀1 (1.茨城県立医療大学保健医療学部理学療法学科, 2.日立製作所日立総合病院リハビリテーション科, 3.茨城県立医療大学付属病院診療部)

Keywords:腹壁筋, 電気刺激療法, 呼気流速

【はじめに,目的】腹壁筋への電気刺激療法(以下,腹壁電気刺激)は,咳嗽機能の回復を図る治療法のひとつである。我々は,脊髄損傷者への臨床応用に向けて基礎的研究を進めて,これまで一定の刺激強度にて呼気流速が高まることを報告した(Sewa, et al., 2013)。一般的に,体幹が直立位に近づくほど咳嗽力は増すことが報告されている(Badr, et al., 2002)ことから,腹壁電気刺激においても,ベッドや車椅子での肢位を考慮する必要がある。しかし,背臥位に比べ長座位などの体幹直立位では,腹部臓器の位置が腹腔内にて上方に押し上げられて横隔膜の動きが制限されるため,この状態では腹壁電気刺激の効果は十分に得られない可能性がある。そこで本研究では長座位に着目し,一定強度の腹壁電気刺激を行った際の呼気流速や換気量に及ぼす影響を検討した。

【方法】対象は健常男性9名(20.2±0.8歳)とした。電気刺激は日本光電製Neuro pack EMB-5504を使用し,呼気流速をトリガーとして,呼気開始直後から自動的に1.5秒間の電気刺激が出力するよう設定した。縦14cm×横4cmの電極を使用し,下位肋骨から2~3cm下方で臍を挟んだ側腹部に貼付した。刺激強度については,予備実験により被験者全員が耐えられる最大の強度であった70mAとした。刺激条件は,周波数50Hz,パルス幅200μsの双極性矩形波とした。測定肢位はティルト型車いすを使用し,長座位を設定した。呼気流速はフェイスマスクに取り付けた差圧トランスデューサーを介してアンプで増幅し,換気量は呼気流速を積分することで算出した。主な測定項目は最高呼気流速(PEF),平均呼気流速(MEF),一回換気量(TV),分時換気量(MV)であり,各肢位で電気刺激なし(以下,off)で3分間測定した後に,電気刺激あり(以下,on)で2分間測定した。なお,呼吸が安定した後半1分間を解析対象とした。統計手法にはWilcoxon検定を用いて,off,onでの各パラメータを比較した。

【結果】PEFはonにおいて有意な増加が認められた(off:0.50±0.09L/s,on:0.63±0.20 L/s,p=0.038)。MEFも同様にonにおいて有意な増加が認められた(off:0.26±0.08L/s,on:0.33±0.15 L/s,p=0.028)。TVおよびMVでもonにて増加がみられ,MVでは有意差が認められた(TV off:0.65±0.10L,on:0.72±0.22L,p=0.173 MV off:9.00±2.24L,on:10.97±4.38L,p=0.021)。

【結論】我々の先行研究において,電気刺激を行わない状態での背臥位では,PEFが0.46L/s,MEFが0.25 L/s,TVが0.65L,MVが8.27Lであった。PEFでは,今回の長座位の方が高く,先行研究と類似した結果が得られた。特に,電気刺激を加えるとPEF・MEF・MVにおいて増加が認められており,長座位でも一定の効果が示された。なお,今回は健常者が対象であったが,脊髄損傷者では腹壁筋の麻痺から筋緊張が低下し,座位では逆に咳嗽力を発揮できない症例も予想される。今後,臨床においては姿勢条件にあわせた刺激プロトコルを構築する必要があると考える。