第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本呼吸理学療法学会 一般演題ポスター
呼吸P07

Sat. May 28, 2016 2:50 PM - 3:50 PM 第11会場 (産業振興センター 2階 セミナールームA)

[P-RS-07-4] 周術期がん患者の術前リハビリテーションと栄養介入の有用性を経験した一症例

髙橋忠志1, 尾花正義1, 尾身諭1, 小磯寛1, 栗田慎也1, 西山孝子2 (1.公益財団法人東京都保健医療公社荏原病院リハビリテーション科, 2.公益財団法人東京都保健医療公社荏原病院栄養科)

Keywords:がん, 術前, 呼吸リハビリテーション

【はじめに,目的】

開胸開腹術における周術期の呼吸リハビリテーション(以下,リハ)は術後の呼吸器合併症を予防するといわれている。井上らは食道癌患者において,術前に7日以上の積極的呼吸リハを行うことによって術後呼吸器合併症を予防できると報告している。さらに,Mariaらは肺癌患者の術前呼吸リハの内容は胸部理学療法を行うよりも,筋力・持久力トレーニングを含めた呼吸リハを実施したほうが術後の在院日数,胸郭ドレーンチューブ留置日数が短縮したと報告している。濱口らは,がん患者の低栄養・体重減少はよく認められる病態であり,消化器癌や肺癌患者では低栄養・体重減少は高頻度に認められ,不良な予後と関連するとしている。今回,周術期がん患者で,術前からのリハと栄養介入が有用であった症例を経験したので報告する。

【方法】

対象は76歳,男性。疾患は転移性肝癌。既往歴として,2014年12月に右肺癌術後(右上中葉切除)。術前のADLに関して,起居動作は自立していたが,動作時の息切れが強く,歩行は杖で10m程度であった。2015年7月15日当院外科に転移性肝癌の治療目的に入院。7月16日理学療法(以下,PT)を術前から開始。7月29日開腹にて肝切除(S1)を施行。7月30日PTを再開。8月14日自宅退院。本症例に対して,術前からのリハとして,呼吸法の指導を含めたコンディショニング,上下肢の筋力トレーニング,歩行練習などを行った。なお,術前のPT介入日数は7日間であった。栄養介入として,栄養科の管理栄養士が栄養指導,食形態の調整などを行った。リハと栄養介入による変化を握力,膝伸展筋力(体重比),歩行速度,6分間歩行距離,体組成値(体重,除脂肪量,四肢骨格筋指数(以下,SMI))で評価した。

【結果】

リハと栄養介入前後の各評価項目の変化をPT開始時⇒術直前⇒術後1週⇒退院時の順に以下に示す。握力14.7kg⇒16.5kg⇒8kg⇒13.9kg,膝伸展筋力27.7%⇒47.5%⇒39.1%⇒42.7%,歩行速度0.7m/秒⇒0.5m/秒⇒0.2m/秒⇒0.6m/秒,6分間歩行距離100m⇒200m⇒100m⇒225mとなった。体組成値は,体重では55.6kg⇒58.5kg⇒55.2kg⇒54.8kg,除脂肪量33.5kg⇒37.7kg⇒34.8kg⇒34.3kg,SMI5.2⇒6.3⇒5.2⇒5.4となった。栄養では,入院前は1日1食程度しか食べられなかったが,入院後の栄養介入後には,軟菜で1500kcalの食事を平均8~10割摂取可能となった。しかも,術後2日目から経口摂取が可能となり,摂取量は低下しなかった。なお,術後に呼吸器合併症も発生しなかった。

【結論】

今回,周術期がん患者に対する,術前に7日間の包括的呼吸リハビリテーションと栄養療法の併用介入が,患者の運動機能を向上し,体組成を改善した。このことにより,術後呼吸器合併症が発生せず,術後の早期にリハを再開することが可能となり,運動機能の回復を促したと考える。これは術前リハと栄養療法で運動機能,体組成ともに予備能を高めたことによる効果と考える。