第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本支援工学理学療法学会 一般演題ポスター
工学P03

2016年5月28日(土) 10:30 〜 11:30 第11会場 (産業振興センター 2階 セミナールームA)

[P-SK-03-3] Neural Networkを用いた歩行における機能的電気刺激の開発

下田武良1, 高野吉朗1, 山本直輔2, 田川善彦2 (1.国際医療福祉大学福岡保健医療学部理学療法学科, 2.久留米大学医療センター)

キーワード:機能的電気刺激, Neural Network, 認識率

【はじめに,目的】

近年,先端医用工学の発展により,歩行能力を改善させる機能的電気刺激が注目されている。我々は,無線慣性センサの情報からNeural Network(NN)による歩行状態の推定を行い,推定結果に基づいて対象筋に電気刺激を行う機能的電気刺激システムを開発した。しかし,非刺激時の計測量を学習データとしたNNでは電気刺激時の歩容変化に適応できず,刺激精度の指標となる認識率が低下するという問題が生じた。そこで今回,リアルタイムでNNによる再学習を行うプログラムを作成し,自由歩行,従来型電気刺激歩行(従来型),再学習型電気刺激歩行(再学習型)の3条件における,歩行速度,歩幅,歩行率及び認識率を比較しシステムの有用性を検討した。

【方法】

対象は,健常若年者15名(男性5名,女性10名,平均年齢21.7±0.45歳)とした。評価は,対象筋の探索,刺激強度の決定,歩行状態の計測後,自由歩行,従来型,再学習型歩行の順に測定を行った。電気刺激歩行は,被験者の歩行状態の推定のため,慣性センサ(9軸小型無線ハイブリッドセンサIIWAA-010)を両足に装着し通常歩行を計測した。ここで計測した角速度データより一歩行周期を4区間に分割し,各区間の角速度波形をNNで学習し歩行状態を推定した。歩行における刺激対象筋を下腿三頭筋,前脛骨筋とし,踵離床から爪先離床の区間で下腿三頭筋,爪先離床から踵接地の区間で前脛骨筋の電気刺激を行った。なお,電気刺激歩行時の刺激強度は最大耐用電圧の80%とした。測定項目は歩行速度,歩幅,歩行率及び認識率とし,認識率は各歩行における10周期分の角速度データから,分割した4区間のNN認識回数から算出した。自由歩行,従来型,再学習型の3条件の各測定項目の比較には一元配置分散分析反復法を行い,有意差を認めた項目に対して多重比較検定(Bonferroni法)を行った。有意水準は5%未満とした。

【結果】

認識率は,自由歩行で97.64±1.20%,従来型で74.2±8.87%,再学習型で96.23±4.04%であり,自由歩行と従来型,従来型と再学習型の2群間で有意な差が認められた(p<0.05)。その他の歩行速度,歩幅,歩行率は,いずれも有意な差は認められなかった。

【結論】

本研究の結果から,従来型と比較して再学習型では高い認識率を得た。これは,歩行時にリアルタイムでNN再学習を行い,歩行状態に適したパラメータを随時に更新したためと考えられる。認識率が高いことで,従来型と比較して対象筋への適切なタイミングでの刺激が可能となりシステムの有用性が確認できた。機能的電気刺激は歩行能力低下に伴う筋収縮や関節運動を補助し歩行を支援するシステムであり,今回,対象者が健常若年者で歩行支援の必要性が低いことから,歩行速度,歩幅,歩行率において変化がみられなかったと考えられる。今後は,高齢者などの歩行能力が低下した人を対象に本システムの有用性を検証する必要がある。