第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本支援工学理学療法学会 一般演題ポスター
工学P03

2016年5月28日(土) 10:30 〜 11:30 第11会場 (産業振興センター 2階 セミナールームA)

[P-SK-03-4] HALの制御方法を工夫することで歩行能力の改善をみた慢性期脳損傷患者の1症例

深町秀彦, 寒川弘一, 山﨑奈ツ紀, 泉從道, 鈴木和子 (鹿教湯三才山リハビリテーションセンター三才山病院)

キーワード:HAL, 制御方法, 歩行練習

【はじめに】当院では,ロボットスーツHAL福祉用(以下HAL)による起立歩行練習を行っている。今回,慢性期脳損傷患者1例に対して,通常とは異なる方法でHALを施行し歩行能力に改善を認めたので報告する。

【方法】(症例)平成20年交通事で受傷した脳挫傷の20歳代女性。複数のリハビリ専門病院で治療後,平成23年リハビリ継続目的で当院へ入院。入院から2年間,通常の理学療法を継続したが,介助歩行は重介助を要し回復は停滞状態にあった。HAL施行前評価 知的機能:指示理解良好で意欲的。ROMT:制限無し。12段階式片麻痺機能テスト(12グレード):上肢11/2 手指10/2 下肢11/6(右/左)。右上下肢・体幹:失調症状(協調性検査ICARS:55/100点)。FIM:70/126点(コミュニケーション,食事,車いす自走以外要介助)。問題点:右上下肢の失調症状による起立,立位保持不安定。歩行時左下肢振り出し困難。HALの介入目的:左下肢の振り出しを可能とする。期間・頻度は平成26年1月~平成27年3月まで,3単位×1回/週で計44回実施。失調症状で体幹の動揺あり免荷機能付き歩行器オールインワン を併用した。その間,通常の理学療法も並行して実施した。

【結果】開始当初,左股関節屈曲・伸展,膝関節屈曲・伸展筋の4筋群からの生体信号を基に左下肢の制御を試みたが,左下肢振り出し時に,痙縮による過剰な同時収縮によりHAL自体が股関節,膝関節伸展位で固定されて動かなかったり,逆に不随意的かつ不規則に股関節,膝関節が屈伸を繰り返したりと歩行制御が行えず,PTの介助が必要であった。自力で左下肢の体重支持は可能であったため,あえて股関節伸展,膝関節の屈曲伸展のアシスト量をゼロにし,股関節屈曲のみのアシストに変更した。しかし,この状態でも適切な振り出しは制御できなかった。そこで,開始から4ケ月後,股関節屈筋のトリガー筋を大腿直筋から,収縮が強く確認できた縫工筋に変更したところ,左下肢を出そうとするタイミングに合わせて振り出し制御が可能となっていった。終了時の評価(44回目)12グレードなど理学療法機能評価は変化なし。歩行:四点杖,左金属支柱付短下肢装具使用。体幹の代償見られるが,HAL非装着時,自力で左下肢振り出しが可能となり,連続30m程度の介助歩行が可能となった。本人からは「脚の振り出し方が分かってきた」と肯定的な感想が得られた。HALの歩行練習は好評で,積極的に取り組まれていた。HAL終了から7ケ月経過した平成27年10月の時点,左下肢の自力での振り出しは更にスムーズとなりHALの効果が持続している。

【結論】HALの歩行練習において,通常の方式にとらわれず,機能改善の目的や部位に応じて特定関節のみの制御や生体信号の導出方法を適宜変更していくことも有用と考えられた。