第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本支援工学理学療法学会 一般演題ポスター
工学P04

Sat. May 28, 2016 2:50 PM - 3:50 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-SK-04-3] 胸髄不全損傷を合併した左大腿義足患者へのロボットスーツHAL(HAL)による短期歩行練習効果

住吉司 (山梨厚生病院)

Keywords:HAL, 大腿義足, 胸髄不全損傷

【はじめに】HALの二系統の制御体系,一つは装着者にHALの重量は感じさせない一方積極的なアシストは行わない粘性補償制御(以下VIS)モード,そして筋活動の情報に基づきアシストを行う随意制御(以下CVC)モード。当院ではHALによる介入後の歩行能力向上のために上記のモードを選択的に活用している。今回は胸髄不全損傷を合併した左大腿義足装着患者にHALを装着し行った短期歩行練習効果について10m快適歩行時間の結果から比較分析を試みた。

【方法】症例は受傷後4.5年経過した50歳代男性,胸髄不全損傷Th11,AIS/D,排尿は間歇的自己導尿。左大腿断端長29.0cm,下肢筋力は等尺性股屈曲/伸展トルク 右14.3Kg/20.1Kg,左20.8Kg/19.4Kg(断端末で測定),等尺性膝屈曲/伸展トルク 右20.04Kg/14.4Kg,左は測定不可。義足componentはIschial-Remal Containソケットにシリコンライナー,膝継手はTotal Knee 2000,足部はSACH足を使用。歩行はT杖にてPT室内独歩可能だが院内は車椅子にて移動。方法は,Assist強度の設定をVISモードで開始,このときの10m快適歩行時間を基準値とする。これからCVCモードにおいて10m快適歩行時間が最短となるassist値を決定する。練習の内容は歩行練習を快適歩行速度における平行棒内歩行20分間と見守りでのT杖平地歩行10分間とし,その他の筋力増強練習などはいずれの期にも同様に行う。短期歩行練習による効果に関してはABA型シングルケースデザインとした。A1期およびA2期はHAL非装着,B期はHAL装着での平地歩行練習を各期週5回ずつ行った。それぞれの期の最終日にはHALなしでの10m快適歩行時間を測定しこれらを比較した。

【結果】VISモードにおける10m快適歩行時間は20.37,20.57,21.10秒であった。一方,CVCモードにおける最短の10m快適歩行時間は18.26,16.38,16.64秒で有意差あり(t-test p<0.05),このときのassist値を採用した。短期歩行練習による結果は,10m快適歩行時間,A1期前14.00,13.03,13.50秒,A1期後13.51,14.19,14.50秒,B期後13.81,14.04,13.23秒,A2期後13.47,13.64,13.94秒でありいずれもA1期後に比し有意差は無かった。(t-test P<0.05)

【考察】大腿義足歩行は本来,動力(モーター)を持たず,人間が力源となって義足を前方に投げ出す特有の歩行様式である。この困難さゆえに実用歩行が難渋するケースも少なくない。今回はHAL装着下での義足歩行におけるassistの有効性が検証出来た。しかし,我々の本来の目的であるHAL使用による練習後のHAL装着なしでの歩行能力の向上は検証出来なかった。その理由として,ケースの義足歩行期間が長い(慢性期にあった)事,また,練習時間や期間が短かった事などの理由により10m快適歩行時間を有意に短縮出来なかったと考える。今後,これら練習期間や時間の延長,さらに,受傷後,間もないケースや,その他の歩行能力の異なるケースへの適応を考え新たな検証をし続けたいと考える。